俺の提案、慧の心の内

俺はしばらく考え込んだ。「あの~ヒロシさん?どうされました?」おずおずとケイが言った。さっきとは打って変わって落ち着いた口調で。

俺はハッとして「すみません、ケイさんの話を聞いて少し考えていました」と答えた。「もう一回踊っている映像見せてもらえませんか?」俺はケイからスマホを借り映像を見直した。映像を見終わり、スマホを返しケイに俺は話し始めた。

「あなたが私を指名した理由はよく解りました。俺も男だから女だからと言う考えは好きではありません。ただ、女装した上にダンスをするというのは難易度が高すぎます。体の線が出るドレスを着て、ヒールを履いて、あなたのリードで踊るということでしょう?引き受けるかどうかよりも、自分が務まるかと考えていました」と言った。「パーティーにはお父様の取引先や友人、親戚の方も来られるでしょう。失礼があってはいけません。ケイさんの為にも、お父様の為にも。それにケイさんお父様のこと嫌ってませんよね。『お父様の力になりたい』それが本音なんじゃないんですか?」最後の方は、少し語気を強めに俺は言った。

ケイはびっくりした様子で「それは…」しばし無言。『やっぱりな、本当に嫌いならパーティーをぶち壊そうとするはずだし』と俺は思ったが、口には出さすケイが話すのを待った。

しばらくしてケイは吹っ切れたように「おっしゃる通りです。父の力になるためには父の考え方を変えなくてはならない。だからと言って、お客様に迷惑は掛けたくはありません。ヒロシさんと一曲踊ったら退場して、その後は橘商事の社長の娘として接客しようと思っています。ヒロシさんは踊ったら帰るという流れで準備をします。ヒロシさんには、ご無理をさせますし、失礼なことと解っていますが・・・・」とケイは静かに言った。

俺は「それは構いませんよ。どちらにしても俺はパーティー会場に残ることはできません、相手の女性役が俺とばれたくありませんし、その方がありがたいです」と言った。

ケイは安心したように「それでは、務まるとわかったら引き受けてくださるということでよろしいでしょうか?」と言った。

「はい。お嬢様の我儘なら断りますが、そうではないようですし。そこで提案なんですが、俺がめいっぱい女装してあなたと会って、実際に見ていただいて、できればダンスの基礎を少し教えていただくとか。そうした上で務まるようであれば部長にも頼まれましたので、お引き受けします」と俺は答えた。

ケイはしばらく考えていたが、「解りました。確かに、ドレスやヒールを履いて踊るのは難しいですものね。全く経験はないのですか?」ケイは俺に聞いた。

「全くないですね。映像ぐらいは見たことありますけど・・・・」と俺は答えた。

ケイは「それなら次の休みにあなたが女装して会いましょうか、女友達として。ヒロシさんの連絡先を教えていただけますか、ダンスの方も手配します。かかる費用はこちらで負担しますからご心配なく」とケイは言った。

それから二人で連絡先を交換してその日は分かれた。


翌日俺は部長に「今度の休みに会って決めることにしました」とだけ報告した。

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