高級料亭

俺は仕事が終わると、指示された料亭に向かった。料亭の玄関で名前を言うと、女将が「橘様から伺っております。こちらにどうぞ」と案内してくれた。廊下をかなり歩くと離れのようなところに着いた。

女将が「宮原様がいらっしゃいました」と言うと、中から「どうぞ」と女の人の声がした。女将が両膝をつきふすまを開けると一礼した。中を見ると橘慧が待っていた。「宮原様お入りください。後、私が呼ぶまで誰も近寄らないように」と慧が支持する。女将は「承知いたしました」と言い、俺が中に入ると正座のまま深々と礼をしてふすまを閉めて立ち去った。

「ごめんなさいね、仰々しくて、ここ父の懇意にしている料亭なの、さ、座ってください、料理が冷めるわ」と砕けた口調で言い、自分の向かいの席を勧めた。テーブルの上にはたくさんの料理が並んでいた。俺が席に着くと「いただきます」と言って慧は食べ始めた。

それにならって、俺も食べ始めたが流石高級料亭、普通では味わえない美味しさ。しばらく無言のまま食べ、食べ終わりお茶を飲み始めたところで慧が「そろそろ話をしなくてはね」と口を開いた。「私のことはケイって呼んでください、あなたのことはヒロシと呼ぶから、敬語はいらないわ。まずこれを見て」と俺にスマホを渡した。

そこに出ているのは男女が躍っている映像。見終わって顔を上げると、慧が「その映像で女役で踊ってるのが私。社交ダンスってね女は男のリードに従って踊らなくてはならないの。おまけに、パーティーには男女ペアで出るんだけど、男性からダンスを申し込まれたら女性は申し込んだ人と踊らないといけない。嫌な人でも拒否できないの。競技ダンスならお互い話し合って一つの流れを作ることも出来る。でも普通はこの男女の格差がなくなった時代に無条件に男に従わなければならない。私にはそれが我慢できないの。なぜ男に従わなくてはならないわけ!女がリードして踊ってもいいじゃないの!!だから、私は男装して男役をやってダンスをリードしたいよ!!!」慧は声高に熱く語った。

俺はお嬢様と思っていた慧の意外な一面を見せられ、何も言えず、スマホを持ったまま唖然として慧の方を見ていた。

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