第46話 可愛いエミリー1

私とランスロット様は、ラッセン家の別邸に着いた。


「ここです。」

「そうか。」


満面の笑みを見ていると心が痛む。

けれど、今は私が母親である事は間違いないのだから、しっかりしないと!


馬車を下りると邸にいる使用人が出て来て、ランスロット様に頭を下げた。


その中にミランダもいて、私と目が合った。目は口ほどに物を言う…まさにその通りね。ミランダの目を見れば、トーマはまだ来ていないのはすぐにわかった。


どうしよう…。私はランスロット様から離れられないし、カルラさんがいないとエミリーはすぐ泣いてしまうし…。


色々考えても既に私は自由に行動出来ない位置にいる。


「アレン様、エミリーはこの部屋にいます。」


私がドアをあけランスロット様を部屋にとおすと、エミリーの側に座っていたカルラさんが頭を下げて壁際へ移った。




エミリーを見たランスロット様は、とても優しく笑った。


「ルーナ、君の両親もさぞ娘の子を見たかっただろう。」

「…はい。」

「私には子はいない。だから、君のお父さんにルーナの話をよく聞いたよ。」

「父が自分から自慢していたのではないんですか?」

「ああ、いつも色々聞いてたら『自慢の娘だ』と言ってたよ。私だけじゃなく、ルーナの話は皆よく聞いていた。」

「皆?ランスロット様だけではなく…。」

「ああ、聞いてて飽きないからね。」


飽きないって…。まさか笑い者にされてたのかしら…。『自慢』の娘は。


「……マックスが亡くなったと知ったのはルーナが結婚してからの事だ。ここ数年国外にいたからね…。残念だよ。」

「こうして私に会いに来てくれるだけで、父は喜んでいると思います。」

「そう言って貰えると嬉しいよ。」

「そうだアレン様。エミリーを抱っこしてみませんか?」

「ぜひそうさせて貰いたい。…と思うが、恐ろしくもある。」

「大丈夫ですよ。」


国一番の商人でも、赤ちゃんを抱くのは怖いのね。自分の子がいなかったのだから、よけいにそうなるはずだわ。


「ふぎゃふぎゃぁ…」


私がエミリーを抱えるとおもいっきり泣き始めた。


「私が抱っこすると泣くんです。よしよし…。泣かない泣かない…。」


本当に、今は泣かないで…。

私の祈りが通じたのか、エミリーが泣き止んだ。


「アレン様」

「あ、ああ…」

「首がまだすわってないので、ここを…」

「…こう…すればいいかな…」


今の彼は、貿易商というより孫を抱くおじさんっていうイメージ。ほんわかしている。


「…泣きませんね。」

「ああ。」

「私にだけは泣くんです。やっぱり嫌われてるのかな…。」

「そんな事はないさ。」

「…だといいんですが。」


やはり父親トーマを大嫌いというのがエミリーに伝わるんだわ。

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