第43話 出産祝い1

馬車の中、会話もないまま邸に戻ってきた。


「離縁の事以外なら話す気はないわ。」

「俺にはある。」

「虫については本人に聞けばいいでしょ。」

「そうではなくて、明後日エリーゼ…アダムス伯爵令嬢をエミリーに会わせる。側にいるかどうか、それを決めてもらいたい。」

「……」


ああ、本題はそれなのね。


「ここに連れてきてる時点で、向こうは会いたくないと言ってるのでしょう?」


「…そうだ。」


「私が妻を演じてる間は家族水入らずで過ごせばいいと思うわ。大歓迎よ。あ、それならミランダはこちらに呼んでくれるかしら。」


「わかった。」


「ヘマだけはしないでね。今日までの苦労が水の泡になった時は、問答無用で即離縁よ。」


「ああ。」


「これだけは言っておくわ。子供に会わせ続けたいから離縁しない…なんて選択をするようであれば、相手が伯爵令嬢だとしてもドン底に突き落とすわよ。」


「どうするつもりだ…?」


「種明かしするつもりはないわ。それを覚えててと言いたいだけよ。」


ただの脅しよ。


「エミリーが1才になった日に離縁する。」


「本当っ!?やっと決まったわ!」


どうせ1年はここにいるつもりだったし、離縁さえ決まればこっちのものよ!後は、私に味方してくれる人がいないという現実を打破すれば成功よ!


虫事件はひたすら謝り倒すわ。子供の頃の何気ない行動だけど、心的外傷で大変な事になってるかもしれないもの。


「ルーナにエミリーがなつかないのがわかる気がする。」


「…」


何故そんな事を言われないといけないの…。こんな面倒に巻き込んでおいて。


「エミリーが1才の時に私はいないから大丈夫よ。将来の記憶にも残らないと思うし、仕事としては大変だけど問題ないわ。」


「あんなにショックを受けていたのに?」


「それとこれとは話が別よ。今まで子供に嫌われた事はないから切なかっただけ。」


嫌われた事がないとか言ってるけど、シトロン君には強盗で、シュート君には小枝扱いされてたけどね。


…3兄弟を見てて大事な事を教えられた。


「エミリーが年を重ねれば悩みも変わるし、その時は親としての対応は今と同じではいられないわ。」


母親がいない…と寂しがったり、将来の事で悩んだり。


「エミリーの人生で貴方はいつまでも父親なの。あの子を守ってあげられるのは、エリーゼじゃなく貴方なのよ。」


「わかってる。」


「そうは見えないわ。愛だの恋だのと、いつまでも子供みたいに。まわりから見れば、いい大人が馬鹿みたいよ。」


私が『考えろ』と言ってる深い意味をいまいち理解してないのよね。会う会わないだけの問題じゃなくなる。


都合のいい夢は、寝てる間だけ見てほしいわ。


「後妻に虐められてメイドのような扱いを受けてた私と結婚しておいて、それが理解できないなんてね。残念だわ。」

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