第42話 虫事件3

「話っていうのは、離縁の日をいつにするか決めてくれたって事?」


マイセンさんは知ってる訳だし、馬車の中だけど聞いてもいいよね。もう嬉しくて邸まで待ちきれないわ。


「『虫事件』とはなんだ?」

「むしじけん?」


「ミランダと話していただろう。その被害者の男に会うと。相手はルーナに会いたいと思ってる男だとか。」


あれ聞いてたんだ…。

どうしよう。ヘンリーが何処の誰なのかミランダしかしらないけど、名前を聞けばわかる人…って事かもしれない。なら、ここでトーマに言うのは不利だわ。


「ミランダのお友達よ。」

「ほう、なら聞いてもかまわないな?」

「何故そんなくだらない事を聞くの?」

「妻が男に会いに行くなんて、目立つからだ。」

「…既に目立ってるわよ。」

「今以上にだ。」


私が悪い訳じゃない事まで、私のせいにしないでほしいわ。


「私が誰に会うかまで、貴方に言う必要性を感じないわ。愛人が誰なのか、こちらが突き止めなければ黙ってやり過ごそうとしてた男に。」


「…名前だけは言ってくれ。何かあった時に対処出来なければ、ルーナも困るだろ。」


…確かにそうなんだけど。

貴族のいざこざに巻き込まれた時に物を言うのは、相手と此方の身分の上下になるのよね。

厄介事に巻き込まれて、農家弟子入り前に夢が潰えるなんて嫌よ。


「ヘンリーっていう人よ。」

「ヘンリー…」

「知り合い?」

「ミランダの知り合いだと言っていたな。」

「…ええ。」

「なるほど。」


これは失敗したわ。ミランダの知り合いは絞りこみやすいかもしれない。

何故偽名を言わなかったの。

馬鹿をみるのは正直者…そんな世界なのよ…貴族がいるところは。


「わかったの?私がわからないのに。」

「ああ、間違えてはいないと思う。」

「……誰なの?」

「虫事件の内容と交換条件だ。」

「わかったふりをして聞き出そうとしてるんでしょ。」

「なら俺もついていく。挨拶するには丁度いい。陛下の護衛隊隊長の長子で、来年護衛隊に入隊する男だ。護衛長に個人的に会うのは難しいが、息子に会えればチャンスはある。」


「……護衛隊長の息子?」


そういえばミランダも『護衛隊の人の息子じゃないか』って言ってた。


どうしよう。虫をくっつけて泣かせてたのは、そんなに凄い人の息子だったなんて…。こうなると、私は隊長にも嫌われてるはずよ。


「会いに行くのは止めるわ。男の人に会うなんて、トーマの言う通り目立つもの。」


「いや、問題ない。俺がいつでも付き合おう。」


それが1番困るのっ!

ミランダ、何故教えてくれなかったのよ!!


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