第41話 虫事件2

トーマがエミリーを抱っこしても泣かない…。最初だけかと思ったら、会いに来る度に抱っこしても絶対に泣かないのよね。


「んぎゃふぎゃあ…」

私が抱っこするとすぐに泣いてしまった。

「…抱きかたが下手なんじゃないのか?」

「……」



トーマだけには言われたくなかった…。

既に私以外に抱っこされても泣かないのよね。エミリーは…。


「やはり、偽物だってわかってるのよ…。そうに違いないわ。」


まだ目もしっかり見えていないのに、私だけを拒絶してるなんて…。


「たまたまだろ。」

「真実でしかないけどね。」

「お2人とも、エミリーを挟んで喧嘩はしないでください。」


こうして、いつもカルラさんに怒られて、その横でミランダが笑う。その繰り返し。


私は全然成長していないわ。きっと、トーマが大嫌いって気持ちが強すぎて、エミリーに伝わるのね。嘘でも仲良く…。トーマのほうをチラっと見ると目があった。


「どうした?変な顔をして。」


仲良く…絶対に無理ね。


「何故ムスっとしてる?」

「…いつもこんな顔よ。」

「まぁ、笑顔だった時はないな。」

「お互い様よ。」


この結婚で、私が笑顔になる要素があると思ってるのかしら。


「トーマ様、そろそろここを出ませんと、邸に帰るのが遅くなります。」

部屋のすみに控えていたマイセンさんが言った。

「そうだな。」



トーマが帰る時は一応見送る。

私とミランダとイーサンの3人。


「もぉかえるのか?」

「ああ、また来るからな。」

「あした?」

「ん…明日は無理かな。」

「……」

最近イーサンはトーマになついてて、いつも引き留めようとする。イーサンは父親を事故で亡くして寂しいから、トーマがいるのは嬉しいのね。


「イーサン、もうすぐトーマに嫌でも毎日でも会えるようになるから、今は放っておいていいよ。」


邸にはもちろん乳母のアナも来るしね。


「わかった…。バイバイ。」

「ああ、またな。」


エミリーだけじゃなくイーサンまでなつくなんて。トーマ…たまにしか来ないくせに…!


「トーマオジサン。」


「ん?」


「ルーはトーマオジサンのお嫁さんなのか?」


「そうだ。ルーは俺のお嫁さんだ。」


…よくもぬけぬけと笑顔で言えるわね。


でも離縁までは妻だと思わせないと、『エミリーの本当のお母さんは誰なの?』て聞かれても困るしね。


「じゃあ、ずっといっしょだな!」

「そうだな。」

「……」


イーサン、そんな最低なオジサンに騙されては駄目よ。私は11ヶ月ほどでいなくなるからね。


「ルーナ、今日は邸に一緒に帰るぞ。2人で話したい事がある。」

「ここでは話せないの?」

「契約の事だ。」

「っ!?」

「2人で話したい。」

「わかったわ。」

「ミランダ、お前は来なくていい。」

「畏まりました。」


ミランダがいないのは不安だけど、こんなチャンスは多くないわ。


「ルーも行くのか?」

「明日帰ってくるからね。」

「わかった。」

コクコクと頷いて見送ってくれた。

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