第40話 虫事件1

最近、トーマがエミリーによく会いに来る。


「もっと早くから会いに来ていればよかったのに。」

「俺だって毎日暇な訳じゃない。」


愛人には会いに来ていたくせに、よく言えたものね。


「言いたい事が顔に出てるぞ。」

「貴方になんかに私の表情を見分けられるわけないじゃない。」


ろくに見てもいないんだから。


「トーマの子なんだから、貴方になついてもらわないと。本当に再婚しないつもりならエミリーには父親しかいなくなるんだから。」

「……」

「ほら、今日こそトーマもエミリーを抱っこしてあげて。」

「……こんなに小さいのに、俺が抱えても大丈夫なのか?」


カルラさんに教えてもらってエミリーを抱っこするトーマ。きっとエミリーは泣く…って思ったのに全然だわ!


「はは…やっぱり、お父様だとわかるみたいね…。」


自信喪失だわ。

私は頑張っても未だに泣かれるのに…。初めて抱っこしたトーマにも劣るだなんて…。


「私、…水を飲んでくるわ。」

「ルーナ、水ならここにあるぞ。」


そんな事はわかってるのよ。ショックが大きくて部屋を去りたいの。


でも、これでいいんだわ。悔しいけど。



「ルーナ!」


廊下を歩いていると後ろから名前を呼ばれた。


「…ミランダ、どうしたの?」


……?声をかけてきたのに何故後ろを向いてるのかしら。視線の先に何かあるようにも思えないけど。


「……」

「ミランダ?」

「あぁ、ごめんごめん。あのね、今度ルーナ会わせたい男がいるのよ。」

「誰に会えばいいの?」

「虫事件の被害者。」

「…っ絶対嫌よ。そんな恐ろしい事。」

「相手は会いたいみたいだったわ。」

「ミランダ…何処の誰だか知ってるの?」

「まあね。」


本邸に帰っても子育てと雑務だけだし、会ってもいいかな。『ごめんなさい』って言えれば、私を恨まないかもしれないしね。


「そうね、1度会ってみるわ。」

「なら決まりね!」

「…何故そんなに嬉しそうなの?」

「別に、私はルーナの側にいる時はいつもご機嫌よ。」

「ご機嫌というより、面白がってるが正解な気がする…。」

「まぁまぁ。で、ルーナは何か落ち込んでるの?」

「うん。エミリーは私が抱っこすると泣くのに、トーマだと泣かなかったの…。」


「そんな事でショックをうけてるの…?」


「やっぱり遺伝子って凄い物なのね。」


「……たまたまでしょ。」


やっぱり面白い子だわ。


・・・・


「カルラ、ルーナを見てくる。エミリーを…はなすぞ…。手を離すぞ…大丈夫だな?」


「ふふ、大丈夫ですよ。」


「はぁ…」


こんなに小さくてフニャフニャだとすぐ壊れそうで怖い…。


「ここは任せて、早くルーナ様を追って下さい。」


「ああ。」


俺はルーナの後を追った。

少し行くとミランダと話をするルーナが見える。


『会わせたいがいる』


そう言っているのが聞こえた。ミランダは明らかに俺に気がついていた。なのに、わざと聞こえるように言ってきた。


何を考えてるのか…。悔しいがあの女の方が上手うわてだ。


会わせる相手、虫事件の被害者…。

『虫事件』とは何だ?

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