第36話 酷い女3

私がラッセンの別邸に帰ってから2時間ほどして、トーマが来た。


「ふぎゃふぎゃぁ…」

「……トーマが来たから泣いちゃったじゃない。」

「…俺のせいなのか?」

「そうよ。カルラさん、エミリーをベッドへ寝かせるから一緒にいてあげて。」

「はい。」


まだ泣き止まないエミリーをカルラさんに託して私達は部屋を出た。


「話があるんでしょ?私の部屋で聞くわ。」





私の部屋は2階の1室。


「離縁は譲らないわよ。」


トーマが話す前に釘を刺しておかないと。


「…子に会わせないというのは応じられない。」

「ええ、私がラッセン夫人を演じている間はどうぞ毎日でも。」

「2度と会うなと言っていただろ。嫌なんじゃないのか?」

「私が嫌な訳ではなくて、エミリーの事を考えて欲しかっただけよ。貴方達の結論がそれなら別に異論は無いわ。1年後の私には関係ないもの。」

「……」

「離縁した後の事、貴方自身も答えを出せた。その結果がそれなら構わないの。」


何を言っても結局私は最初から蚊帳の外だしね。私の言葉はこの人達には聞こえないのと同じ。


「私がラッセン夫人でいるうちに、誰と再婚するのか目星は付けつおいた方がいいわよ。」


お父様のように騙されなければいいけど…。人生最大の汚点を残して死んじゃうんだから…。



「そうだ、子育て要員として働く給金を決めてもらいたいのだけど。」

「…楽しいか?」

「それは何にたいして?私が2人に言った事への批難?」

「違う、子育てだ。」


意外だわ。そんな事を聞くなんて。


「大変よ。夜は眠れない。エミリーが泣けば、アナの子も起きちゃうし。でも可愛いわ。」

「そうか。」

「トーマ、今日は暫くエミリーの側にいてあげて。会いに来ない薄情な親から産まれたとしても、可愛い事に変わりはないから。」

「もう少し他の言い方は無いのか…。」

「本当の事を言っただけよ。」



バンッ

急に大きな音を立ててドアが開いた。


「ルー、遊ぼ!」

「…っイーサン」

「誰だ?」

「アナの上の子よ。」

「年はいくつだ?」

「自分で聞いてみたらいいじゃない。」


「…イーサン、年はいくつだ?」

「……」

イーサンは、ぷいっと顔を反らして答えない。


「知らないオジサンが来てるから怖いのね。」


屈んで視線を合わせると、イーサンがキュっと抱きついてきた。


「オジサン…」

「エミリーにもお父様じゃなく『オジサン』って呼ばれるかもね。」

「そんなわけ無いだろ。」

「そうなってもおかしくない…っていう嫌味よ。」

「……」

「じゃあ、私はイーサンと遊んでくるからトーマはエミリーをよろしくね。」

「え?一緒に行かないのか?」

「何故?部屋にはカルラさんがいるから大丈夫よ。」


ドタドタドタ

話を終えようとした時に、今度は大きな足音が聞こえてきた。


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