第35話 酷い女2

私は残酷な女かもしれないけど、残酷なのは私じゃなく自分達なのだと気づいて欲しいのよ。


私とミランダが部屋を出ると、愛人は大泣き。トーマはそれを宥めるのに必死。しかも『ルーナとは離縁しないで』とか言ってたわ。あの女…。


トーマは私の書いた契約書にサインしても大丈夫だ…って思っていたはずよ。『子供に会いに来る』…それが簡単な事じゃないと思ってなかったからよ。


トーマは必ず再婚する。跡継ぎに男の子が欲しいと考える時がくる。私の作った契約書を見て言ってたもの。

『俺との子を作る気はないなら離縁する』ってね。これが本音よ。


愛人の前でその場しのぎで返事をするからややこしくなっていくのに、本当に馬鹿よね。




エミリーのいるラッセン家の別邸に帰るのは私とミランダだけ。


「お見事。」

「そうかしら…。私は子供を産んだ事がないから言えたんだわ。」

「可哀想ではあるけど誰もが思う事よ。あの2人は貴族だって事を自覚してない方が悪い。」

「…私がいる間は会いに来てもいいし、どんどん来て下さい…って考えてるわ。」

「まぁ子育て要員で雇おうとしてたくらいだしね。」

「…それが私の本音よ。あの子がトーマと一緒にくれば、その提案もしてみようと思ってたのに、自分の保身の為にあの女は来なかった。」

「昨日言ってた『今なら許す』って、その事だったのね。」

「心意気を確かめたかったのよ。何を優先すべきか何も考えて無さそうだったから。」

「まぁ、考えてる女なら正体をあかせなくても、手紙の1通も書いてよこしてるでしょ。」

「そうだよね…」


これから沢山問題が出てきたらどうしよう。早く離縁したい…


「それにしても、ルーナは頭のきれる子だったのね。」

「…え?」

「『庇う女を間違えない方がいい』って格好よく言ってたじゃない。気がついてないんだと思ってたわ。」


「……お父様の友人は『ルーナ』と聞けば思い出すわよ。『あの悪戯な我が儘娘だ』ってね。嫌われてると思うわ。」


「…どういう事?」


「数々の思い出…。私は嫌われる事しかしていないわ。」


「…何をしたの?」


「ヘンリーって子に虫を沢山くっつけて泣かせたわ。」


「…それは、まさかマーフィー護衛長の息子のヘンリー…じゃないわよね。」


「わからないわ。私をいじめるから仕返ししたの。」


あの男の子、絶対私の事を憎んでいるはずよ。


「ミランダ…まわりは敵しかいないわ!」


お父様の自慢の娘の『自慢』は何だったのか知りたい。ただの親馬鹿じゃない!!


「どうしよう。」

「………」


この子、ただ単に『名前を知ってる』って事で脅しにかかってたの…?


相手は、『私のお父様の友人は全員私の味方をするくらい親しいのよ』って解釈してるわよ。トーマなんて言い返せてなかったじゃない。



とても面白い子を見つけたわ。

それに、思い出話が伯爵令嬢のする事じゃなさすぎる。

逸材だわ。


「クククッ…」

「笑い事じゃないわよ。落ち込んでるんだから。」

「ごめんごめん。」


今度ヘンリーに確認してみよう。ルーナの虫事件について。

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