第23話 邸にて2

コンコン

「マイセンでございます。」

「ああ、入れ。」

「失礼します。」


私とトーマが話していると、マイセンさんがお茶を持ってきた。


「私は結構です。すぐに出ていきますので。」


トーマとのんびりお茶なんて、冗談じゃないわ。お断りよ。


「トーマ様、こちらにサインをお願いします。」

「今すぐには無理だ。大体の項目は解るが全て読んでからサインする。こちらに不利になるようなものがないかだけは確認させてもらう。」


そうだよね。ミランダを見てたら契約は凄く大切なんだって解ったもの。相手は侯爵だし、簡単にはサインしないよね。


「では、書けたら仰って下さい。取りに来ますので。失礼します。」


私はトーマの部屋を出た。


・・・・


「マイセン、何か用か?」


『2人きりで話をしたい』とわざわざルーナを呼んでいる。相手が客ではないのだから、何の指示もしないのにお茶など持って来ない。それなのにここへ来るくらいなのだから何か言いたい事があるはずだ。


「…奥様から離縁の話はでましたか?」


「ああ、こんなものを作って持ってきた。」


俺はマイセンに見えるように、ルーナが持ってきた契約書を机に置いた。


「奥様との離縁はよく考えてから決めて下さい。」


「何故だ?お前は結婚に反対していただろう。それに1年は妻としてこの邸にいる。」


「ランスロット・アレンをご存知ですか?」


「当然だろ。奴を知らない貴族はいない。何か問題でもあったのか?」


「妊婦姿に仕立てた奥様が外出したのですが、その姿を見てアレン様は奥様を呼び止めました。『侯爵の偽装かと心配していた。子供が出来たら祝いに伺う』…と。」


「……伯爵は顔が広かったとは聞いていたが…そこまでなのか?」


ランスロット・アレンはプライベートを知られるのを嫌う。友人であればその事を知っているから、彼の事を口にする事はないだろう。…ルーナはプライベートの1人という事か…。


「伯爵は誰と懇意にしていたのか調べてみてくれ。」


「畏まりました。」



そう言って、マイセンは出ていった。



ルーナ本人は重大さを解っていないようだが、契約書を見て嫌な予感はしている。



ミランダ…あの女は厄介だ。


妊娠の事を口外する事はないし、侯爵家の情報を他言せぬよう契約している。

秘密は洩らさない。だから客が多い。


だが、契約していない事に関しては全く従わない。今回のルーナがいい例だ。


おそらく、マイセンが俺とルーナの離縁を阻むと気がついている。


侯爵家の情報は誰にも言わない。それは守る。

だが離縁についての契約などしていないから、ルーナの味方をさせてもらう…と言ったところだ。


この契約書のいくつかはミランダが考えたものもあるだろう。


契約書に簡易な文を添えたのはミランダの入れ知恵だ。


条件をのまなければランスロットは敵にまわる…この文面で読み取れ。と言いたいんだ、この女は…。

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