第20話 策士1

「ミランダ、帰りましょう。街に出掛けなければよかった…。」


「まぁまぁ、反りがあわなくて離縁しました。って言えばいいのよ。」


「そうなんだけど。お父様のお友達…っていうのが……。」


両親の親しい友人みたいだし、自慢の娘がコレか…ってガッカリするかもしれない。


「元気だしなさい。…それより先に部屋へ入ってて、私は荷物を置いてくるから。」


「うん。」


・・・・


『荷物を置きに行く』っていうのは嘘。前から来た執事に少し話しかけたかったから。



「さすがラッセン家の執事長…といったところですね。」


ルーナが気が付かないのは、まっすぐに育った証拠。


「何を仰りたいのですか?」


「ランスロット・アレンがこの街を通るのを予めわかっていたから、わざわざ妊婦のルーナを見せた、違いますか?ルーナの父親は顔が広いと聞いた事がありますから。」


まさか『ルーナさん』と呼び止めるほどの仲だとまでは思っていなかったようだけど。


トーマ・ラッセンは愛人ばかり気にしてるから、ルーナの本当の良さが見えてない。うちの人見知り甥っ子3兄弟がなついてしまう子だし、虐められて小屋に放置されても『農家弟子入り』の夢を持つ前向きな性格。ルックスも上出来。それが解らないうちは当主として失格ね。

けど面倒なのはこいつよ。この執事は『便利な女を手に入れた』と本気で離縁を邪魔しにくる。


ルーナを出世と家名の為に不幸にするなら、即農家弟子入りよ。


「あの契約書、トーマ様に納得頂けないようであれば、ルーナは私が連れて帰りますので。」


「そんな事は護衛ごときが口出しする事ではありませんね。」


「そうでしょうか。ルーナが気がついてないから内心ホッとしていますよね。」


「……」


「アレン様はラッセン家ではなくの味方だという事をお忘れなく。では。」


とりあえず言いたい事は言えたので、ルーナの部屋にもどった。




「ミランダ、シュート君の休暇はいつになりそう?どこを案内するか決めておこうと思って。きっとあの邸では詳しく話せないし。」


「まだ来れるかどうかもわからないのに計画を立ててるの?」


「シュート君の人生が決まる瞬間かもしれないのよ。後悔しないようにしっかり考えないと!」


「それは後でもいいの。先ず問題はルーナよ。両親が親しくしてた人がいるところに行くのは極力控えた方がいい。今回がいい例じゃない。」


「…誰と親しいのか知らないのよ。」


「家に招待されたりしなかったの?」


「招待されても…邸や庭を駆け回ったり、薔薇の花びら全部とって皆を困らせてた…そんな記憶しかないかな…。」


「迷惑なお嬢様ね。メレブレベルよ。」


「……」


言い訳できない…。

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