第15話 ぶらんこ1

ついに仕分け作業に!って意気込んでいたのに、悲しい事に雨が降ってるのよね。師匠はシトロン君とシュート君を学校へ連れていった。


昼から晴れるのを期待していたけど、結局夜まで雨は止まなかった。

日頃の行いがよくないのかしら…。



家の屋根からぶら下がる、ブランコのようなベンチに座って空を見上げてみた。雨上がりの夜空は綺麗で、星が掴めそうなくらい近くに見える。


たぶん明日は帰る事になる…。普通ならここまで3日。でも私を探すだけなら、もう少し短い時間で来れるから。


侯爵家の人間だと伝えて帰るのは止めよう。お金持ちのお嬢さんとして帰ろう。


自分達とは違うと線引きされるのは辛いもの。

シュート君に見破られてるくらいだから、貴族だというのはわかってるだろうけど…。


貧乏伯爵家の娘。

伯爵というのも既に脱け殻。

親族の話し合いの結果、従兄に爵位を譲渡するよう決めてある。私が結婚したらね。

私は土地も資産も失ったのと同じ。

だからこそ結婚相手にはピッタリだった。味方も何もないから。



「おい小枝、それ俺の椅子なんだけど…。」

「えっ!?」


後ろからシュート君の物凄く不機嫌な声がした。


「ごめんなさい、勝手に座って…。星が綺麗だったから、眺めてれば悩みも減るかな…て。」

「貴族でも悩みとかあんのかよ。てか、邪魔。もっとつめろよ。」

「…あ、ごめんなさい。」


よかった、端に追いやられたけど座っててもいいんだ…。


「悩みは皆あるよ。きっと。」

「……」

「多分明日、1度家に帰らないといけないから、今度もし会えるとしたら1年2ヶ月後なの。その時は逞しくなって帰ってくるから『小枝』呼びは止めてね。」

「…もし?」

「……全てが上手くいくかはわからないから。でも、諦める事はしないわ。農家に弟子入りよ!」

「外から来る奴には楽しいんだろうな。どんなに嫌な事があっても、一生ここから出ていけねぇ奴もいんのに。」

「……」


私が『やりたい事が出来ない』って嘆く事よりも、シュート君の方が背負ってる物は大きいよね。


「これは秘密にしておこうかと思ったけど、シュート君には言おうかな。」

「何だよ。自慢か?」

「そうだとよかったんだけどね。…私、結婚してるの。で、1年したら離縁してもらおうと計画してるのよ。ねぇ、この近辺って再婚とかってよく思われないのかな?」

「は?離縁?再婚?」

「実家とも夫の家とも縁を切る。そうなれば私に帰る所なんてないから、生きていく場所は自分で作るわ。…難しいけどね。」

「…離縁しなくても、金持ってる奴といれば楽にくらせんじゃねぇか。」

「シュート君はお金持ちで楽に暮らせればそれで納得?自由になる?って、それを選べる私は既に贅沢者ね。」


…シュート君は何か私に聞きたい事があるんだと思う。じゃなきゃ、わざわざ私の横に座るはずないもの。でも、こっちから聞くと『何でもねぇし』とか言われそう…。


「…あんた、王都に行った事ある?城の中とか…。」

「城の中はないけど、都に行った事はあるよ」

「どんなとこ?」

「…人は多いかな。夜もこんなに綺麗な星は見えない。偉そうな人は沢山いるし、物価が高い。けど、その分、働いた給金も他より高いところが多い。」

「城は?」

「中はわからないけど、外観は綺麗だよ。城だけじゃなくて、そのまわりもね。…見てみたい?」

「……」


憧れてても、王都に行くのはお金がかかる。旅行気分で楽しめるところじゃない。ミランダは帰らないつもりだったから兵に志願して暮らせただけ。


「よし!仕事の手伝いを休める日と、学校の休暇がかさなるなら招待するわ!お金を山ほど使ってから離縁してやるのよ!!」

「は?」

「離縁した後に、夫が路頭に迷おうが地位も名誉も失おうが、私には一切関係ないもの。」


本当はお金もあまり使いたくはないけど、1人の少年が悩んでるんだから構わない事にするわ。


「けど、遊ぶ為に招待するんじゃないのよ。城や城の周辺、街が気になるっていうなら、真剣に観察する事。ミランダの案内してくれる所をよく知る事。」

「ミランダ……聞いたのかよ。俺がなりたいもん。」

「…っ!?」


しまった!知らない体で話を進めるつもりだったのに!

「あんたさ、ここでは小枝女だけど、本当はすげぇ嫌な奴なんじゃねぇの?」

「小枝女って何か解らないけど、嫌な奴と言われた事はない…かな。」


可哀想な女とは言われるけど、それは言いたくない…。


「まぁ、別にいいけど。1回行ってみたいし。許してくれるかわかんねぇけど。」

「見に行くくらい許して貰わないと。そこはミランダに上手く話をつけてもらいましょう。」

「無理じゃね?」

「師匠を丸め込むのは上手そうよ。」


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