第16話 ぶらんこ2

「ミランダに頼んだら殴りあいになると思う…。まぁいいや。ミランダ負けねぇし。じゃ、俺もう寝る。」

「うん、おやすみなさい。」


私にいくつか質問しただけで、シュート君はアッサリ家へ入ってしまった。

私はここに来たいけど、出ていきたい子もいる。上手くいかないものね。


私も、はなれに帰らないと。持ってきた物は殆んどないけれど、部屋を少し片付けないとね。


私がここにいた数日の食費やら何やら…、今の所持金で返せるかしら…。

弟子入りしたにしても、子守りとピアノの練習とクッキー作りしかしてないのよ…私。


…財布を見てみると小銭が2、3枚しか入っていなかった。


「ミランダ!大変よっ!!」

「っびっくりしたぁ…、何?急に?」

「所持金が少な過ぎて、食費とか払ってかえれないの!」

「何?そんなくだらない事?何か事件でもあったのかと思った。そんなもん、別にいらないわよ。」

「…でも、仕事してないし。」

「来年弟子入りして返せばいいじゃない。」

「でも、絶対ここにこれるか…」

「あんなに『契約書』やら『未来は明るい』やら言ってたのに、帰るとなったとたん怖じ気づいたの?」

「全く、私は離縁すると決めてるのよ。」

「なら、食費は出世払いでいいわ。」

「ふふ、了解。」


ミランダと話してると元気になれる。あの小屋にいた時も、私と一緒になってトーマを放置するくらいだし。

根性あるんだわ。見習わないと!!


「あ、シュート君に都を見せる約束をしたの。それが出来そうな時期があるなら招待したいんだけど。」

「…あるけど、うちにそんなお金はないから。」

「招待なのだから、お金の心配はしないで大丈夫。私はトーマ・ラッセンの子育てをする女だもの、メチャクチャ高給で雇ってもらうわ。口止め料含めてね。」


そうよ、何もあの男のお金と考えなくても、住み込みで24時間子育て、それを365日。平均がわからないけど日給100コンタ(1万円)だとしても、36,500コンタよ。全然大丈夫だわ。


はいつシュートと仲良くなったの?」

小枝ちゃん…

「仲良くはしてくれてないわ。王都に興味があったみたいで話してただけなのよ。招待する方が酷なのかな…?」


必ず家を継げと言われてるなら、見せない方がいいかとも思ったけど…。


「いいじゃない。この畑を継ぐより強い意志があるなら、『しょうがない』なんて言って諦めて逃げたりしないはずだし。」

「…逃げるとは違う気もするけど。」

「私は兵士になったけど、やめてフリーでやりたい仕事だけしてるのよ。こうやって畑に帰って手伝う事もしてるし。全てをそこに費やせなくなっても、やる気があれば出来る。私のような見本がいるのに、出来ないなんて言わせないから。」

「そっか。」


最後に決めるのはシュート君自身だしね。


「…シュートの事、ありがとね。兄貴には上手い事言っとくから。」

「うん。」


殴りあいにならなければいいけど…。

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