第14話 メレブのクッキー2

皆が帰って来て、メレブ君はクッキーを自慢しながら配っている。


「ボクも手伝ったんだよ。このハートのはボクが作ったんだ。はい、かあちゃんに。」

「あら、ありがとう。」

「うん!」

「父ちゃんにはハートがないぞ?」

「とうちゃんは男だから、ハートはあげない。」

「う~ん、何だか言い方が切ない気もするが、女の人に可愛いものをあげるのはいい事だ。」

「うん!」


ニコニコ話してるのを見ると心が安らぐわ。


「ルーナ、メレブ、私のだけ1枚少ないのは何故なの?」

「ミランダは嘘を1つついたから、1枚少ないんだよね。」

「うん。ウソをついたから。」


「嘘…」

私達の言う『嘘』がピアノの事だとピンとこなかったのか、ミランダはちょっと考えていた。


シュート君もシトロン君も、美味しそうに食べてくれてよかった。シュート君に『小枝が作ったもんなんて食いたくねぇ』って言われるかと思った。



夕食後、はなれに帰って少し気になる事を聞いてみた。


「ねぇ、ミランダ。シュート君は何かやりたい事があるの?」

「シュート…あの子は私に憧れてるのよ。強くなって城で働きたいってね。けど、長男だから家を継がされるだろうって…。」

「必ず長男が継ぐの?」

「…まぁ、決まりはないけどね。」

「そっか…」


私が『農家になりたい』って言うのは、シュート君からすれば贅沢なんだ。いつでも逃げ場があるって…。捨てていけるって。


「あの生意気坊主に何か言われた?」

「ううん、何も。ところで明日は何をすればいい?」

「シトロンが帰ってくるまでメレブと遊んで、そこから農家2日目の始まり。」

「ちょっと出世ね!!」

「あの子達を任されてる方がかなり出世よ。信用されてるんだから。」

「…そっか。何だか照れるわね。」



それから暫く雑談して、それぞれベッドにはいる。

「おやすみ」

「うん、おやすみなさい」


シュート君の自由への1歩は騎士か衛兵なのね…。人それぞれだし、家庭の事情もあるから、そこは私が口出し出来る領分じゃない。


私も人の事を心配する前に、トーマ・ラッセンと縁を切る為に頑張らないと!


契約書は私の手書きじゃ駄目なのかしら。恥をさらすような契約書を誰かに書かせないだろうし、両者のサインと立会人として執事のサインも貰おう。


明日か明後日にはラッセン家の遣いが来て、すぐに邸に連れて帰られる…。本当に嫌だわ。

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