第13話 メレブのクッキー1

次の日、ミランダに言われたとおり、メレブ君にクッキーを作る事になった。


「ルーねえちゃん、クッキー作れるの?」

「うん。手伝ってくれる?」

「うん!」


目をキラキラさせて、とても可愛いわ。私もこんな弟がほしい…!



離縁後の私の将来設計、弟子入りしてから再婚するなら25才以降、贅沢を言うならこの町の男性。


…離縁した後でも貰ってくれる人っているのかしら…。でも子供がいなければそこまで気を使う必要もないよね。ミランダに確認しておこう。


「ルーねえちゃん!ボク星の形がいい!」

「ん~、ここには型がないから星は難しいかな。」

「……」


黙っちゃった。…拗ねそうだわ。


「少し丸を崩してハートにしてみようか。お母さんが帰ってきたら渡そう。ね?」

「うん!」


そこから、カチャカチャ、ペタペタと作業は進んで形を作る。


いつもメレブ君はお昼寝をしている時間だけど、今日はテンションが上がって眠れないみたい。


「もう、できた?」

「ん?今焼きはじめたばっかりだよ。」

「ふーん。」

「もうちょっと待とうか。」


そう言っても1分おきくらいで『できた?』って聞いてくる。


「ふふ…」

「何がおかしいの?」

「ううん、美味しく焼けるといいね。」

「うん!」


こんなに喜んでくれるなんて、作りがいがあるわ。


「はい、焼けたよ。」

「おーー!」

「まだ触ったら駄目だよ。熱いからね。」

「うんっ!!」


やっぱり子供は可愛いなぁ。

産まれてくるのは男の子か女の子、どっちなんだろう。私の子じゃないけど…。


「メレブ君、お皿を出してくれる?」

「うん。」


クッキーは1枚のお皿でおさまるのに、メレブ君が用意したお皿は何故か3枚。


「3枚も何に使うの?」


「このお皿が『かあちゃんととうちゃん』、これが『シューにいちゃんとシトロンにいちゃんとミランダねえちゃん』、これは『ルーねえちゃんとボク』の分。」

「そうだね。皆の分も作ったから分けようか。」


『全部ボクの』って言うかも…って思ったけど、嬉しい事はちゃんと分けるんだ。これはしっかり教えてるからだわ。

私は結構我が儘…と言うかワンパクに育ってたから…思い出すと恥ずかしい…。

10年前、お母様の注意も聞かずに廊下を走って、トーマ・ラッセンにぶつかったのよね。あの時の彼は素敵だったのに。

初恋の人の子を妊娠も出産もせず、いきなり0才から育てる未来が待ってるなんて、あの時は思いもしなかったわ。



「ルーねえちゃん、食べないの?」


そういってメレブ君がトントンと私の肩をたたいた。


「ううん、食べるよ。」


トーマの事なんて考えてる場合じゃないわ。


「いただきます!!」

「いただきます。」


最近あまりお菓子を食べてなかったせいか、自分で作ったからなのか、クッキーはとても美味しかった。自分の分を食べ終わったメレブ君がシュンとしている。


「メレブ君、昨日ミランダは私に1つ嘘をついたから、その分1枚減らそうか。」


ピアノ、きちんと教えてなかったもの。


「うん。ウソつきは1枚へらす。」

「うん、そうしようか。」


子供を育てるって簡単な事じゃないんだろうけど、その分沢山幸せもあるよね。

私の幸せは2ヶ月後に訪れるのかしら…。

昨日も思ったけど、やっぱり不安は拭えないわ。

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