第9話 筋肉痛3
離れから母家に行くと、リンダさんに意外な事を言われた。
「え?ピアノのお稽古ですか?」
「そう、ピアノを持ってるお宅が1件あって、この辺りに住んでる女の子が弾きたがってはいるんだけど、教えてくれる人もいないから。いつもはたまに帰ってきたミランダが教えてるんだけどね。」
ミランダ、ピアノ弾けるんだ。万能だわ。
「今年は人手が足りなくてね。女の子は年に数回のピアノの練習を楽しみにしてるから、ルーナちゃんが教えてくれると助かるんだけど。」
「はい、筋肉痛で力仕事は出来そうにないので、喜んで引き受けます。」
チラリとミランダを見ると、ニコニコして手をふってきた。
せっかくの弟子入りが…。子守りとピアノのレッスンに…。ううん、それも仕事のうちよ。べつに毎日というわけじゃないんだし、忙しい時は適材適所!繁忙期が過ぎたらゆっくり教えてもらおう。
「街に帰ってずっとピアノでも教えてりゃいいのに。どうせ役に立たねんだから。」
私にだけ聞こえるくらいの声で言って、シュート君が後ろを通りすぎていった。
手厳しいわ。でもその通り。今のところ役に立つ存在じゃないしね。
けど最初は何をするのも役立たずから始まって、役に立つように頑張って進んでいくのよ。
家にいて頭から水をかけられたり、足を引っかけられたり…愛人の身代わりにされたり、そんなくだらない虐めをうけて、結局何も得られない時間を過ごしていた私にとって、ここは天国。
自分で頑張った分、自分の為になるんだから。
トーマ・ラッセンは私と子供を作って、1年後に離縁した。そういう筋書きにすればいいのよ。
愛人との子だって、私の子として産まれてくるなら跡目を継げるわけだし問題なしよ。
伯爵家からも侯爵家からも離れた時に、『何も出来ません、私は貴族だからそれでいいんです。』なんて、馬鹿みたいな言い訳は通じない。誰に何を言われても手を抜く時間なんて私にはないわ。
お父様とお母様は言ってた。付き合う仲間は自分で決めなさいって。生きていくのにお互い頼りあえる友人や場所を。
私もこれからそういう人や場所を増やしていきたいわ。そこにトーマ・ラッセンは1ミリたりとも入ってないんだよね。
侯爵との結婚を断るすべなんて無いのは解ってる。それは相手だってそうだわ。
なのに、あのプロポーズの言葉。
『俺は君と10年前にぶつかった日から、ずっと気になっていたんだ。』
結婚してすぐに、これが好意を嫌悪に変えた一言よ。
「ルーねえちゃん、ご飯たべよう。」
「あ、うん。」
メレブ君が私を椅子にすわらせた。
「あれ、ここはメレブ君の椅子だよ?」
「いっしょにすわる。」
私の膝の上にちょこんと座ってニコニコしている。
「そっか。」
いいんだけど、私の膝の上で足をバタバタさせるとね、すねにね…メレブ君の踵が…
「……」
これも試練だよね。
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