地球滅亡の日に××する

来威

地球滅亡の日に××する

「地球滅亡の可能性があります。」

1週間前、世間を騒がせた大ニュース。

“地球滅亡説”否、説というより僕にとっては確信だ。

70%の確率だと言われている。

でも世の中の人々はそれをオモチャとしか思っていない。

ただ僕だけはそれを何故か確信していた。

日々は続く、続きつづける、でもどこかで

何かが違った。

ひとつ1つ何かがほどかれて、崩れていくのが

何処と無く分かっていた。

客観的に見てしまえば何も変化なんてない。

ただ何も出来ずに1日が終わっていく。

昇り、沈み、時計の針が進んでいく。


ある憂鬱な雨の降る日僕は学校の教室で1人外を眺めていた。

近づいてくる足音なんて気にもとめずにただひたすらに外を眺めていた。

「あと数日で見れなくなっちゃうもんね」その声に横を見れば雨宮琴葉が居た。

1つ下の学年で何故かお菓子や手紙をくれる。

でもいつも名前は呼ばないし書かない、友達伝いで間接的に。

「そーいえば先輩っていつも手紙返してくれないよね名前分かんないじゃん」と少し不貞腐れた声で頬を膨らませて言った

僕はそんなことかとしか思わなかった、教える必要も無いから。そのまま目線を戻して夕暮れ頃の帰宅生を目に外を眺めた。

ただ無言の空間が続く、

「先輩だってわかってるくせに」何も気にならなかったのにその言葉を聞いた瞬間感情が溢れ出すような感覚が僕を襲う

「分かってる?何がだ?僕は君のことも知らない、それよりももっと君は僕を」“知らない”そう言おうとした時それを遮るように雨宮は僕に抱きついた。

「おい、何してんだよ」離そうと押し返すと負けずと背中に回している腕にさらに力が入るのがわかる、それと共に泣き声が僕の耳を届く

「知らないなんて言わないで、でも知ってるでしょ」

「まさか、地球滅亡説の事気づいてんの?」内心違うと思ってる。今の僕が可笑しいだけなんだと思う。だが雨宮はその問にこくりと頷いた。

「だから先輩?この世界が死んでしまう前に私と恋をしませんか?」僕のワイシャツに埋めていた顔を上げ、こちらを見る雨宮の顔は少し赤くなっていて、夕暮れの太陽が僕らを照らし、初めてこいつを可愛いって思った。

そこから雨宮は毎日毎日僕のところに来ては好きを伝えて来た。内心学校だからすごく恥ずかしい。それとは逆に雨宮は、

「ねぇ、今日はあそこのクレープ屋さんに行こうよ!」と手を引かれる日や、

「今日はカラオケ〜!」いやでも強引に連れていかれる時もあった。

気づけば滅亡ニュースは流れなくなっていてその代わりに人々の目を引くニュースが流れる。「近日皆既月食があります。これは440年ぶりに惑星食も重なっていて天王星が重なるそうです!」

そんなニュースが巷を騒がせている。

「一緒に見てくれますか?」遊びの帰りに言われたそれに僕はつい気を抜いたまま答えた。

「僕も琴葉と見たいと思うよ」

「へ?」そのちょっと腑抜けた声で我に返る。

「ごめん、忘れて、なんも無い」ジリジリと寄ってくるので頭に手を乗せて少し離すとジタバタとし始める琴葉は子供みたいでキラキラしてる。

ふと何かを思い出したのかピタリと止まって、

「先輩、私の事好きですか?」真顔になって聞かれるとなんだか恥ずかしくて。

「別に好きじゃねぇよ」と言ってそっぽを向いて空を見上げると、月が完全に隠れ初め月が紅く染まり始めていた。


翌朝、学校の支度をしながらテレビをつける。

流れたのは1本のニュース番組。

「近日、地球が滅亡します!」女性ニュースキャスターが慌てるように言っていた。

「そんなこと知ってるよ」僕はテレビを消して家を後にした。

その日のお昼急な停電が起きた。時まれにあるものではあるがこれは違かった、ブラックアウト世界全体が停電になったらしい。どこかで地震があった訳でもなく起こったという。

僕が感じた異変は実現した、間違いなんかじゃ無かったんだ。学校は念の為と給食を食べてそのまま下校となった。僕は琴葉と2人で帰る。その道中琴葉は僕に一通の手紙をくれた。

「先輩へ、今日の夕方4時くらいに天神宮神社に来てください、きっと今日が最後だから」いつもなら1枚の紙にぎっしり書かれているはずなのに今回は違う、短なものだった。

夕刻4時、支度をして、神社へ行き石段を登る。

石段上の鳥居をくぐると琴葉はその先にいた。

「遅い!」

「ごめんて」腕を組んで立っていた琴葉に謝る

許してくれたのか僕の方に来てそっと袖を引いた。

「先輩、見て」言われた通りに視線を移すと街が一望できる、太陽が沈み始めて闇が街を呑み込み始める。

「街が死んでいくね」

「今日が最後だもんな」琴葉は階段先に座って僕もその隣に座る。灯りのない街は闇に呑まれて、

まるで死んでいるようで、月明かりが街をただただ照らしている。

「先輩覚えてます?」少し懐かしそうに言いながらランタンが灯る。小さくて可愛くて暖かなランタンが僕らを照らす。

「ん?」

「去年の夏、ここで会ったんですよ。」

「へ?ここでお前と?」

「夏祭りで私が人酔いして、しんどかった時に助けてくれて、ここに連れてきてそばに居てくれたの覚えてますか?」

「あぁ、そういえば、しんどそうにしてて放って無くて声掛けたっけ」

「その時の先輩がかっこよくて、優しくて、今でも大好きなんです。」照れくさそうにそっぽを向かれる。



去年の夏祭り、僕は家族と来てた、屋台がたっくさん並んで人も多かった。

そんな中で1人の女の子とすれ違った。

その子はきっと友人と来てたんだと思う。

前に仲良く話す人が居る中に1人分の空間が空いてたからその予測がついた。でも誰も気に留めなかったんだ。

僕はその子を見た時放って置けなくて振り返ってその子を追った。

人を掻き分けてかき分けて追いついたその先には今にも倒れそうなその子がいた。

「あの」小さく声をかけた。

「はい?」弱々しい声が返ってくる。

「勘違いだったらごめんなさい。人酔いしてません?」そう聞くと女の子は小さく頷いた。

「じゃぁ少し離れよ?」と女の子の手を取って鳥居の外の人の少ない所へ向かう。

石段に座らせて、水を持ってくる。

「大丈夫?」

「ありがとうございます」俯きながら受け取ってくれた。

「私、ひとが苦手ででもこうゆうの好きで、矛盾してますよね」女の子は困ったように笑った。

「僕もあんまり人好きじゃないよ、祭りとか別にどーでもいい。でもさ、顔あげてみて?」

僕らの目の前には街が全て見下ろせる、明かりの灯る暖かな景色が広がっていた。

「わぁ!」その子は目を輝かせた。

「ここに来るとさ、みんな生きてんだなぁって、嫌いなアイツもこの街もみんな生きてるんだって思えて、なんか楽になんだよね」

「みんな、生きて…」

「あぁ、太陽や月は昇り沈む、人は生まれて生きて死んでいく。嫌なことあって投げ出したくても、消えたくても死ぬって遠いんだなって」

「確かにそうですね、私もこんな自分が嫌いだったので、なんだか楽になります。」と微笑んだ。

「戻るか?この後花火だし」

「このまま一緒に見ても良いですか?」少しこちらを見上げて言ってくるので、

「別に構わないけど」と押しに負ける。


ドンッと言うと音とともに打ち上がる花火は夏の夜空を彩った。その花火に照らされる女の子の目や髪飾りに反射する花火、僕はその時に可愛いと綺麗だと思ってしまった。

「あの、私の名前…」何かを言っていた。しかし、ドンッという花火の咲く音に遮られてしまった。

「何言おうとしてたの?」花火の後ふと聞いてみると「なんでもないです、あ、私あのわたあめ食べたい!」とキラキラした声が僕の心を彩って行く。

「いいよ食べようか」

まさかそれが琴葉だとは思わなかった。

「私、体験入学の時に先輩のこと見つけて入学したんです」

「僕を追って?」

琴葉はコクリと俯きながら頷いた。

「私、あの時名乗ろうとして」僕は俯いた目線に合うように1段降りた。

「天真雅」

「へ?」元気の無い声。

「天真雅、それが僕の名前」

「先輩にピッタリの名前ですね」と優しい笑顔を向ける。

「でも、なんで誰かに僕の名前を聞こうとしなかった?聞けば分かったろ?」

「自分で知りたかったんです。誰にも頼らずに好きな人のこと知りたかった」不貞腐れた声が返ってくるので僕は立ち上がり街を見下ろした。

「他に聞きたい事ないの?」

「先輩って頭いいの?」

「しばくぞ?」と笑って返す

それにつられて無邪気に笑う琴葉は可愛くて。

「ねぇ先輩、もし生まれ変わりがあるなら私、

また先輩のこと、好きになるね」

「んなもん信じてんのかよ」

「なにさー」と頬をふくらませた。

突然、地鳴りのようなものがした。

それは少しずつ大きくなっていく

するとスマホのアラートが流れる

「地震です、地震です」と繰り返される。

街の防災無線が流れる。人々の慌てる姿がここからでも見受けられるし、人の住んでいない古い家屋は今にも崩れそうだ。

僕も琴葉もたっては居られなかった。

「先輩、生まれ変わったらまた先輩に恋をします!先輩に会えて良かった。」と目に涙を溜めながら笑う。

僕はその言葉を聞いて黙ったまま頭を撫でた。

「僕も琴葉と会えて良かったよ」

2人の距離が一気に近づく気がして、2人の影か重なった。

「先輩、ううん、雅先輩」

「先輩いらない」

「雅君?」目の前にいる琴葉は綺麗で可愛くて、去年会った時から何も変わってない。

「なに?」

「大好きです」

「僕も本当は去年から好きだよ」あぁそうだ。

去年一目惚れしてたんだ。

忘れられないくらいに。。。

「ほんと!?」

「うるさい」と頭に手をやって少し俯かせる。

「来世があるなら、今度は僕が見つけて迎えに行く、だから、付き合ってください。」

「喜んで」と笑う琴葉の笑顔は今も変わらずに僕の心を彩って行く。

「大好き」その言葉と共に月明かりが僕らの影を濃くして行った

その日宇宙の中から「地球」という太陽から3番目に近く、生物の住む惑星は姿を消した。

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