第46話 わたくし怪獣ですけど

「わたくし怪獣ですけど、近くそちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 イタズラ電話だと、わたしは思った。


「これはご丁寧に。遠慮なさらず、いつお越しになっても構いませんよ」


 なのでわたしは、てきとうに相手にあわせて、こう言った。



 あとのことは、ご存じの通りだ。




 日本は怪獣に蹂躙され、ほとんど壊滅状態となった。






 わたしは生来、怠惰的である。


 どれほどかというと、面倒くさくて学校に行くのをやめてしまったし、今現在も社会に出ずに、毎日家で過ごしているくらいだ。



 しかしそれを、世間は許してくれない。



 わたしはことあるごとに、周り中の大人に責め立てられた。



 子供は勉強するものなのだから、特別な理由もなしに不登校になってはいけないと、何度も教師が押し掛けてきた。


 人間は生産的であるべきなのだから、成人したら定職につかなくてはいけないと、どこぞのなんたら法人の職員が押し掛けてきた。




 若いうちは勤勉でないと、歳を取ってから困るのだぞと言われても、わたしにしてみればいい迷惑だ。




 第一わたしは、食うに困っていない。


 死んだ両親が資産家で、莫大な遺産を残してくれたので、一生遊んでもお釣りがくるくらいだ。



 それならどうして、勤勉でないといけないのだろう。


 学校に通って、勉強する必要など、どこにあるのだろう。



 会社で働いて、金を稼ぐ必要など、どこにあるのだろう。



 若いうちだとか、歳をとってからだとか、なんの意味があるのだ。


 どうせわたしが働いたって、莫大な財産と比べればなんの足しにもならないのに、なんの意味があるのだ。



 若いうちだとか、歳をとってからだとか、なんの意味があるのだ。




 どうせ結末は変わらないのだし、だったらだらだらと両親の遺産を食いつぶして、べつにかまわないではないか。




 わたしは生来、怠惰的である。


 どれほどかというと、面倒くさくて学校に行くのをやめてしまったし、今現在も社会に出ずに、毎日家で過ごしているくらいだ。



 しかしそれを、世間は許してくれない。



 わたしはことあるごとに、周り中の大人に責め立てられた。



 子供は勉強するものなのだから、特別な理由もなしに不登校になってはいけないと、何度も教師が押し掛けてきた。


 人間は生産的であるべきなのだから、成人したら定職につかなくてはいけないと、どこぞのなんたら法人の職員が押し掛けてきた。



 だからわたしは、正直なところ、むかついていたのかもしれない。



 怪獣から電話があった時、わたしは心のどこかで日本なんて嫌いだと、滅びてしまえばいいと、そう思っていたのかもしれない。


 だからわたしは、怪獣が日本に来たいと言ったとき、どうぞと言ったのかもしれない。



 怪獣から電話があった時、わたしは心のどこかで日本なんて嫌いだと、滅びてしまえばいいと、そう思っていたのかもしれない。




 怪獣が本当に日本に来た時、日本中を蹂躙しまくった時、多少驚きはしたものの、案外するんと受け入れられたのは、そのせいかもしれない。






「わたくし怪獣ですけど、近くそちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 イタズラ電話だと、わたしは思った。


「これはご丁寧に。遠慮なさらず、いつお越しになっても構いませんよ」


 なのでわたしは、てきとうに相手にあわせて、こう言った。



 あとのことは、ご存じの通りだ。




 日本は怪獣に蹂躙され、ほとんど壊滅状態となった。






 今頃どこの国の、誰の電話が鳴っているだろう。


 どこかの国の、その誰かは、怪獣になんと答えるだろう。



 今頃どこの国の、誰の電話が鳴っているだろう。




「わたくし怪獣ですけど、近くそちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」




 アメリカが滅びても構わないし、ヨーロッパが滅びてもどうだっていいし、怪獣が返り討ちに遭っても面白そうだ。






「わたくし怪獣ですけど、近くそちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 イタズラ電話だと、わたしは思った。


「これはご丁寧に。遠慮なさらず、いつお越しになっても構いませんよ」


 なのでわたしは、てきとうに相手にあわせて、こう言った。



 あとのことは、ご存じの通りだ。




 日本は怪獣に蹂躙され、ほとんど壊滅状態となった。






 ――ああ、せいせいした。

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