第41話 欲求
彼は太っている。
どれくらい太っているかというと、まだ中学一年生で、身長がやっと160cmに届くくらいだというのに、体重はすでに80kgを超えているありさまだ。
そのため、友人たちは彼のことを、いつか身体を壊さないかと心配している。
友人たちはことあるごとに、彼に将来のことを考え、痩せるべきだと説くが、しかしちっとも効果がない。
なぜならば彼は、食べるのが大好きだからだ。
日々の食事もそうだが、特に間食の類がひどく、コンビニの新商品は欠かさずにチェックするくらいだ。
食事では何度もおかわりをして、おやつにコンビの新商品を食べて、身長160cmにして80kgの肥満体ができあがってしまった。
そんな彼が、突然運動部に入部した。
それも試合中は休むことなく走らなくてはならず、練習も厳しいという、サッカー部にだ。
友人たちは、彼がやっと痩せようとしているのだと、喜んだ。
しかし同時に、運動の不得手な彼のことなので、長続きしないのではないかと、友人たちは危惧した。
ところがそんな友人たちの杞憂をよそに、彼のサッカー部活動は、長く継続することになる。
一年が過ぎ、二年が過ぎ、中学校を卒業しても、継続することになる。
高校生になっても、もちろんサッカー部に入り、朝から晩までサッカーに明け暮れる。
そのあいだに、彼はすっかり、スポーツマンになってしまった。
あれだけ太っていたのに、スマートな筋肉質になって、成長期もあいまって、身長も180cmに迫るほどになった。
高校生活も後半に差し掛かるころには、地域の世代別代表に選出されるまでになり、あれだけ相手にされなかった女の子にもモテるようになった。
しかし、長年付き合った彼の友人のうちの一人は、不思議に思う。
あれだけ不摂生を続けていたのに、彼はどうして、突然サッカーに目覚めたのだろうか。
しかも一過性のものではなく、何年も何年も継続して、世代別代表に選出されるまでになったのだろうか。
そこで、彼の友人のうちの一人は、彼にどうして突然サッカーに目覚めたのか、聞いてみることにした。
「なあ、おまえってどうして、突然サッカーを始めたんだ」
「だって、サッカー部の練習はお腹がすくから、たくさんご飯が食べられるじゃないか」
たしかに運動はお腹がすくし、お腹がすけばすくほどたくさん食べられるのは事実だが……。
そのためだけにサッカー部に入り、地域の世代別代表に選ばれるまでになるとは、人間の欲求とは恐ろしいものだ。
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