第39話 ナイフ

 わたしはとがったナイフだ。

 するどく他人をきずつけた。


 わたしはとがったナイフだ。

 知らないふりを続けていた。



 わたしはとがったナイフだ。


 するどく自分をきずつけた。






 言葉に棘があるね――。


 友達に言われたのはいつだっただろう。

 小学校の頃だったかもしれないし、中学校の頃だったかもしれないし、高校生のころだったかもしれない。



 言葉に棘があるね――。


 友達に言われたのはいつだっただろう。

 過去のことだったかもしれないし、現在のことだったかもしれないし、未来のことだったかもしれない。




 友達に、言葉に棘があるね――と、言われたのはいつだっただろう。




 わたしはそれでも、自分を省みることはなかった。

 他人にどう言われようと、他人にどう思われようと、自分は自分を貫いた。


 わたしはそれでも、自分を省みることはなかった。

 好き勝手生きてなにが悪いと、協調する他人などいらないと、自分は自分を貫いた。



 わたしはそれでも、自分を省みることはなかった。




 他人にどう言われようと、他人にどう思われようと、自分は自分を貫いた。




 わがままだったのだろう。


 自由の意味をはき違えていたのだ。

 他人を傷つけてもいいと思っていたのだ。


 わたしにはそれが許されると思っていたのだ。


 わたしは可愛くて、賢くて、親がちょっとした権力者で、お金があった。



 だからちやほやされていて、常にまわりに人がいたので、本当の友達の苦言も気にも留めなかった。




 せっかくそれとなく、彼女はわたしに、自分を見つめ直すきっかけをくれたのに……。






 わたしはとがったナイフだ。

 するどく他人をきずつけた。


 わたしはとがったナイフだ。

 知らないふりを続けていた。



 わたしはとがったナイフだ。


 するどく自分をきずつけた。






 言葉に棘があるね――。


 友達に言われたのはいつだっただろう。

 小学校の頃だったかもしれないし、中学校の頃だったかもしれないし、高校生のころだったかもしれない。



 言葉に棘があるね――。


 友達に言われたのはいつだっただろう。

 過去のことだったかもしれないし、現在のことだったかもしれないし、未来のことだったかもしれない。




 友達に、言葉に棘があるね――と、言われたのはいつだっただろう。





 今はもう、わたしのまわりから、人はいなくなった。


 可愛いとか、賢いとか、親が権力者とか、お金持ちとか、そんなものは一時的だ。



 今はもう、わたしのまわりから、人はいなくなった。


 結局は、他人を惹きつけるのは、安っぽいブランド価値ではなく、人となりなのだ。



 わたしはついぞ、それに気づくことはなく、驕り続けた。




 そのせいで、今はもう、わたしのまわりからは、人はいなくなった。






 わたしはとがったナイフだ。

 するどく他人をきずつけた。


 わたしはとがったナイフだ。

 知らないふりを続けていた。



 わたしはとがったナイフだ。


 するどく自分をきずつけた。






 友達に、言葉に棘があるね――と、言われたのはいつだっただろう。




 もう一度彼女に会って、もう一度自分を見つめ直すチャンスを手に入れたいが……。



 すでに手遅れ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る