第36話 焼肉は戦争だ

 焼肉は戦争だ。


 カルビを焼けばカルビを食べ、ロースを焼けばロースを食べ、食べられなくなった者から死んでいくのだ。



 焼肉は戦争だ。


 背中合わせでお互いを守りあい、テーブルを離れたときには、自然と絆が深まっているのだ。




 焼肉は戦争だ。






 友達とけんかをした。

 理由はとても些細なことだったように思う。


 なんだったか、たしか若手俳優のあっちがイケメンだとか、こっちがイケメンだとかで、意見が割れたのだ。


 しかし、些細なきっかけからとはいえ、けんかはけんかだ。

 多感な女子高生のこと、謝るに謝れなくて、そのまま別れ別れということもあるのだ。



 高校を卒業して、大人になって、同窓会の案内が来て、会場で離れきった場所に座るなんてことも往々にしてあるのだ。



 現にわたしも、けんかをした友達と、一週間以上も話をしていない。

 わたしと彼女は、親友と言っていいような間柄なのに、こんなもんだ。


 イケメンとイケメンを比べあって、あっちがこっちがなんて、イケメンとつきあえるわけでないのに、生産性などどこにあるのだ。



 若手俳優のあっちがイケメンだとか、こっちがイケメンだとか、ある程度以上のレベルがあれば、そんなものは好みの問題ではないか。




 イケメンとイケメンを比べあって、あっちがこっちがなんて、心配しなくてもイケメン俳優は、そのうち同業の美人女優と結婚するのだ。




 こんな時は焼肉である。


 なにしろ焼肉は戦争だ。



 食べられなくなった者から死んでいくのだ。



 こんな時は焼肉である。


 なにしろ焼肉は戦争だ。



 背中合わせになって絆を深め合うのだ。



 けんかの最中で、最初は気まずくとも、そのうち会話も生まれてくるのだ。


 あの肉が焼けたとか、この肉はまだ生だとか、言葉もなくして焼き肉は食べられないのだ。



 けんかの最中で、最初は気まずくとも、そのうち会話も生まれてくるのだ。



 締めはラーメンにしようとか、デザートはなにを食べようとか、食べ放題の安い店だってかまわないのだ。



 焼肉の魅力の前に、些細なけんかなど吹っ飛んでしまうので、焼き肉は仲直りに最適だ。




 問題はどうやって彼女を誘うかだが、たとえけんかの最中だって、「おごってあげる」の一言もあれば、焼き肉の魅力に勝てる者などいないはずだ。




 どうせ彼女も仲直りしたいと思ってるはずなので、ただで焼き肉も食べられるしと、これ幸いにと乗っかってくるはずだ。




 さあ、戦場に行こう。


 食べられなければ死ぬ、焼き肉に行こう。



 さあ、戦場に行こう。


 背中合わせで絆を深めあう、焼き肉に行こう。



 さあ、戦場に行こう。




 仲直りをしに、焼き肉を食べに行こう。






 焼肉は戦争だ。


 カルビを焼けばカルビを食べ、ロースを焼けばロースを食べ、食べられなくなった者から死んでいくのだ。



 焼肉は戦争だ。


 背中合わせでお互いを守りあい、テーブルを離れた時には、自然と絆が深まっているのだ。




 焼肉は戦争だ。






「今度はわたしがおごったげる」


 ――と友達が言ったので、またけんかをしても、きっとわたしたちは大丈夫。

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