第31話 月村朝子は人を食っている

 月村朝子さんは人を食っている。

 なにを馬鹿なとは思うが、しかしそんな噂が囁かれるのも納得できる。


 なぜならば彼女は美しすぎるのだ。


 肌は透き通るような白さだし、髪は絹糸のように艶めいているし、瞳はまるで宝石のようなのだ。



 わたしたちとおなじ女子高生とは到底思えないのだ。



 だから馬鹿なとは思うが、しかしそんな噂が囁かれるのも納得できる。

 近頃若い女性が失踪する事件が多発しているのは、朝子さんが処女を攫い、肉を食い血を啜っているせいだと、まことしやかに囁かれている。


 そうでなくては、あまりにもみじめだ。

 そうでなくては、朝子さんとわたしたちは違いすぎるのだ。


 そうでなくては、あまりにもみじめだ


 朝子さんとわたしたちは、おなじ女子高生とは思えない、月と鼈だ。



 いや、むしろおなじ生物とすら思えず、朝子さんが人間だとすればわたしたちは石ころだし、わたしたちが人間だとすれば朝子さんはきっと天使だ。



 しかしわたしは知っている。

 朝子さんは実は努力の人だ。


 なにも最初から美しかったわけではないのだ。


 実はわたしは、幼稚園のころから朝子さんとおなじ学校に通っているのだが、出会った頃の彼女はそれはもう普通の女の子だった。

 いや、もしかするとむしろ、もっとあうっと、野暮ったい感じの女の子だったかもしれない。


 ところが小学校の中学年になり、アイドルに憧れた彼女は美容に目覚めた。


 そして徹底的に自分を磨き上げたのだ。



 食事はサラダを中心にして好きだったお菓子をやめたし、お風呂は半身浴で毎日一時間は汗を流すし、夜更かしは絶対にしないで午後十時には眠ってしまうのだ。



 そうやって朝子さんは年々美しくなり、やがて天使と見紛うまでになったのだ。



 しかしわたしには不満がある。

 いや、朝子さんが努力して美しくなったのには納得している。


 問題は、わたしがちっとも美しくならないことだ。


 わたしだって、朝子さんほどでないにしろ、努力しているのだ。



 サラダ中心ではないが食事も気を使っているし、一時間ももたずに音を上げてしまうが毎日半身浴だし、日付をまたぐことはあるが夜更かしだってほとんどしないのだ。



 なのにわたしはちっとも、美しくなるどころか、野暮ったいままだ。



 だからきっと、努力だけではないのだろう。

 美しくなるのには、才覚だって、必要なのだろう。


 なのできっと、努力だけではないのだろう。



 美しくなるのには、才覚だって、必要なのだろう。




 そうでなければ、朝子さんが美しすぎるのに説明がつかないし、まさかもしかすると本当に――。




 月村朝子さんは人を食っている。

 なにを馬鹿なとは思うが、しかしそんな噂が囁かれるのも納得できる。


 なぜならば彼女は美しすぎるのだ。


 肌は透き通るような白さだし、髪は絹糸のように艶めいているし、瞳はまるで宝石のようなのだ。



 わたしたちとおなじ女子高生とは到底思えないのだ。



 だから馬鹿なとは思うが、しかしそんな噂が囁かれるのも納得できる。

 近頃若い女性が失踪する事件が多発しているのは、朝子さんが処女を攫い、肉を食い血を啜っているせいだと、まことしやかに囁かれている。


 なにを馬鹿なとは思うが、しかしそんな噂が囁かれるのも納得できる。



 月村朝子さんは人を食っている。




 わたしたちが敵わないのも当然で、月村朝子さんは処女を攫い肉を食い血を啜る、魔女なのである。



 そう思っておかなければ、なによあんたは、恵まれない女の子たちに世界を滅ぼされたいのかしら――?

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