第29話 祈り

 この世界には落とし穴がある。

 それらは誰の目にも見えない。


 この世界には落とし穴がある。

 落ちたら誰も生きて返れない。



 この世界には落とし穴がある。




 それらは神様にさえ見えない。




 わたしは思うのだ。

 わたしが落とし穴に落ちていないのは、運がいいからだと。


 わたしは思うのだ。

 落とし穴に落ちてしまったみんなは、運が悪かったからではないと。



 わたしは思うのだ。




 誰でも次の瞬間に、落とし穴に飲み込まれ、死んでしまう可能性があるのだと。




 だけど多分、仕方のない事なのだと思う。

 なにせこの国は、災害大国と言われている。


 だけど多分、仕方のない事なのだと思う。

 なにせこの世界は、たくさんの危険にあふれている。



 だから多分、仕方のない事なのだと思う。



 わたしたちが「今」悔やむ必要はないし、大きな声で泣けばいいのだと思う。




 誰に責任があるでないのだし、ひとくくりにする必要はないし、それぞれでいいのだと思う。




 あの日のことを、たぶんわたしは、一生忘れない。

 いや、わたしだけでない、この国中の誰もが、あの日のことを忘れない。


 あの日のことを、たぶんわたしは、一生忘れない。

 いや、わたしだけでない、この世界中の誰もが、あの日のことを忘れない。



 わたしたちは、大勢の人間が落とし穴に飲み込まれていった、あの日のことを決して忘れない。




 あの日のことを、たぶんわたしは、一生忘れない。




 この世界には落とし穴がある。

 それらは誰の目にも見えない。


 この世界には落とし穴がある。

 落ちたら誰も生きて返れない。



 この世界には落とし穴がある。




 それらは神様にさえ見えない。




 わたしは思うのだ。

 わたしが落とし穴に落ちていないのは、運がいいからだと。


 わたしは思うのだ。

 落とし穴に落ちてしまったみんなは、運が悪かったからではないと。



 わたしは思うのだ。




 誰でも次の瞬間に、落とし穴に飲み込まれ、死んでしまう可能性があるのだと。






 人間はだから、生きているだけで美しく、そして儚い。



 そう、あなたも。

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