第24話 ダイエット
男は犬を飼っている。
長年の独身暮らしの寂しさを紛らわすために、数年前に、ペットショップから迎え入れたのだ。
ところがその愛犬が、このところどうも、太ってきてしまった。
かかりつけの動物病院に定期検診に行った時にも、これ以上太らせてはいけないと、獣医にくぎを刺されてしまった。
獣医によると、犬も人間とおなじで、太りすぎては、いろいろな病気の危険性があるというのだ。
そこで男は、愛犬を散歩に連れ出すことにした。
これまでは彼は、愛犬が小型犬であり、室内運動で十分なので、散歩に連れて行ったことはなかった。
それを毎日散歩に連れて行けば、愛犬は瘦せるだろうし、自身もやや太り気味なので、一石二鳥というわけだ。
早速男は、思い立った翌日から、愛犬を散歩に連れて行く。
それも仕事に行く前の早朝と、仕事から帰ってからの夕方と、一日二回だ。
一度決めてしまえば、彼はまめな男なので、一日二回の散歩を欠かすことはなかった。
風が吹こうと、雨が降ろうと、愛犬にきちんと防寒具や雨具を着せ、一回三十分、近所をぐるりと歩いた。
しかし、しばらく散歩を続けても、愛犬がちっとも痩せてくれない。
男自身は、すっかり身体も引き締まり、ベルトの穴も二つも手前になったが、愛犬はちっともだ。
彼は不思議に思って、かかりつけの動物病院の、獣医に相談した。
ところが獣医も、愛犬の痩せない理由が、さっぱりわからなかった。
毎日二回、まめに散歩を続けているのなら、本当ならもっと痩せて、引き締まっていてもいいと、首を傾げた。
とりあえず獣医は、続けていればいずれ効果も出るだろうと、アドバイスをするしかなかった。
人間だって犬だって、いやどんな動物だって、毎日の運動を怠らなければ、きちんとダイエットの成果は出るはずなのだ。
だから男は、愛犬の散歩を、欠かさずに続ける。
今日も、明日も、明後日も、一日二回、一回三十分、近所をぐるりと歩く。
しかし、やはりというか、愛犬は痩せないし、引き締まってこない。
だけど男は、愛犬の散歩を、欠かさずに続ける。
今日も、明日も、明後日も、一日二回、一回三十分、近所をぐるりと歩く。
しかし、やはりというか、愛犬は痩せてこないし、引き締まってこない。
それでも男は、愛犬の散歩を、欠かさずに続ける。
今日も、明日も、明後日も、一日二回、一回三十分、近所をぐるりと歩く。
毎日、毎日毎日、毎日毎日毎日、一日二回、一回三十分、近所をぐるりと歩く。
しかし、やはりというか、愛犬は痩せないし、引き締まってこない。
しかし、やはりというか、ちっとも、愛犬は痩せないし、引き締まってこない。
男は不思議だった。
なぜ愛犬は痩せてくれないのだろうか。
男は不思議だった。
自分のやりかたが、なにか間違っているのだろうか。
男は不思議だった。
なぜこんなに努力しても、愛犬はちっとも、痩せてくれないのだろうか。
かかりつけの獣医が言うには、本来なら摂取カロリーと消費カロリーの差により、今頃愛犬はすっかりスマートになっているはずなのに……。
男はそれでも、愛犬の健康のために今日も、彼を抱き上げ、散歩に出かける。
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