第17話 苦い薬

 あるところに、決して大手ではないが零細でもないという、中途半端な製薬会社があった。

 その製薬会社の作る薬は、効果も十分だし、価格もそれなりなのだが、なぜか売り上げが芳しくなかった。

 今まではそれでもよかったが、折りしも時代は不景気で、このままでは大勢の社員を食わせてはいけないと、社長は困り果てていた。

 そのため社長は、社運をかけたプロジェクトを発足させて、売り上げの見込める薬を作ることにした。

 プロジェクトがうまくいけば、売り上げで社員を路頭に迷わせることもないし、もしかしたら一躍大手になれるかもしれないし、一石二鳥だ。



 そこで社長が目を付けたのは、とある大手製薬会社の、看板商品である。

 その薬は、総合感冒薬――いわゆる風邪薬なのだが、世界中で売れている大ヒット商品だ。

 しかし、効果はよいのだが、とても苦くて有名で、そこだけが不評だった。

 その薬の弱点を克服すれば、より売れる薬ができるのではないかと、社長は考えた。



 さっそくと、社長は大手製薬会社の風邪薬をとりよせ、研究スタッフたちと開発に取り組んだ。

 まずは社長は、とても苦いというこの薬の、成分を分析することにした。

 このプロジェクトのために、大枚をはたいて高価な機材を導入したので、それはそう難しくなかった。

 判明した成分によると、とても苦い風邪薬は単純にできていて、効果を維持したまま苦みを取り除くのが簡単であることがわかった。

 これで自分の会社も、やっとヒット商品を作ることが出来ると、社長は胸をなでおろした。



 ほどなくして、彼の会社から、新薬が発売されることになった。

 大手製薬会社の風邪薬と効果がおなじの、しかも苦くない薬である。

 いや、苦くないどころかむしろ甘く、子供でも飲みやすいものになっていた。



 ところがこの薬が、まったく売れなかったのだ。

 世界的ヒット商品を改良した商品だというのに、大手でも零細でもない製薬会社の、これまでの商品の中でも最低の売り上げだった。

 社運をかけたプロジェクトに失敗し、時代の荒波に飲まれ、会社は倒産してしまった。



 しかし、社長には不思議である。

 効果はおなじだし、飲みやすいのであれば、大手のそれとおなじとはいかなくとも、それなりの売り上げがあってもいいはずだ。



 社長は疑問を解決させるため、伝手を頼って、大手製薬会社の社長に会って、売り上げの秘密を尋ねることにした。



「どうしてうちの会社の商品は、あなたの会社の商品のように、売れなかったのでしょうか?」



「薬は苦くないと効いた気がしないんです。だからうちは、わざと苦くしてるんですよ」



 たしかに中堅の製薬会社の自分たちに簡単に弱点が取り除けて、大手製薬会社にそれが出来なかったのは不思議ではあったが――。




 まさか弱点こそが売り上げの秘訣だとは、思ってもみなかったことだ。

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