第16話 一日女体体験

 宇宙人の知り合いから、一日だけ女になれる薬をもらった。

 早速俺は服用して、女になったらやりたかったことを実行した。


 まず欠かせないのは、裸になって姿見の前に立つことだ。

 女になった自分がどんななのか、確認するのは、漫画でよくある憧れのシチュエーションだ。


 次に俺は、街に出て、当たりそこらじゅうの女性限定サービスを享受しまくった。

 レディスデーはたくさんあるのに、なぜメンズデーは少ないのかと、俺はいまだに不思議だ。


 そして当然、番台で金を払って、女湯に入るのもやった。

 近くに大学の女子寮があるその銭湯は、さすがに若い女が多くて、あまりに目移りして、のぼせて鼻血が出るかと思った。


 ほかにもいろいろやったが、さすがに言及するには憚られる内容も含むので、そろそろやめる。


 ともかく俺は、女の姿を堪能しきって、そして一日が終わった。



 しかしそこで問題が起こった。



 男の姿に戻らないのである。



 一日限定の薬のはずが、二日経っても、三日経っても、女のままだ。

 今は夏休みで、一人暮らしだからまだいいが、夏休みが明けてもこのままだったらどうしようか。


 俺はまさか、女の姿のまま、学校に通うのだろうか。


 俺は心配になって、薬をくれた宇宙人の知り合いに、どういうことか聞くことにした。

 喫茶店の隅で、宇宙人の知り合いは、申し訳なさそうな顔をしていた。


 なんでもあの薬は、効果は一日は一日でも、地球ではなく、彼の母星での一日なのだそうだ。


 一日とは実は必ずしも、二十四時間ではない。

 一日は各々の居住星の、自転周期の長さであり、地球のそれがたまたま二十四時間だっただけだ。


 それでは、宇宙人の知り合いの母星の、自転周期――一日はどれくらいの長さなのだろうか。



 尋ねると、彼は困ったように、はにかんだように、言った。




「僕の星の一日の長さは、地球で言うとちょうど一年くらいです」




 俺は目の前が真っ暗になった。

 一週間や二週間なら許せるがなんと一年だ。


 俺は目の前が真っ暗になった。

 一週間や二週間なら許せるがなんと三百六五日だ。




 軽い気持ちで女になってみたかっただけなのに、まさかこんなことになるとは思わなかった。




 そのせいで、僕の母星の一年はたった十日なんですよと、彼は笑ったが――。



 知るか、そんなもん!

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