第15話 ロケット
どうしてサッカーを始めたのか、よく聞かれるようになった。
幼少の頃から、俺はサッカーをやっている。
最初は広場でボールを追いかけまわすだけの、それは粗末なものだった
覚えているのは、一日も休まずに、毎日バカみたいに走り回ったことだ。
その甲斐あって、サッカー少年団に入団して、すぐに俺はレギュラーになった。
中学生の頃には、地域の選抜チームにも選ばれた。
今は卒業を控えた高校生なのだが、インターハイも経験したし、そのため強豪大学やプロチームのスカウトが来るようになった。
ところが俺ときたら、とてもサッカー選手とは思えない体格をしているのだ。
いや、体格だけでなく、実は運動神経だって、そんなに良くはない。
しかし、だからだろう、俺がなぜサッカーをやっているか聞かれるのは。
俺みたいなのは異端児なのだ。
どこをとっても普通の顔しか見せない俺が、プロの門戸を叩こうだなんて、注目されるはずだ。
サッカー誌の記者たちはこの凡才がどこまでいけるか気になるだろうし、同じように体格に恵まれない連中はどうすれば俺のようになれるか知りたいはずだ。
ただ俺としては、どう答えればみんなが満足してくれるか、それがわからない。
だからいつも、曖昧に濁して、当たり障りのないことを言っている。
選手の誰それに憧れたのだとか、ワールドカップの熱狂にあてられたのだとか、そんな感じだ。
しかし本当は、もっと別の、はっきりした理由があった。
実は俺は、最初にサッカーボールを蹴飛ばした時の、あの感動が忘れられないだけなのだ。
あのボールがすっ飛んで、高く空に舞い上がって消えていくような、あの感動が忘れられないだけなのだ。
初期衝動としては、上等なのではないだろうかと、俺は思う。
初期衝動を持ち続けたものが、いっぱしになれるのではないだろうかと、俺は思う。
初期衝動としては、上等なのではないだろうかと、俺は思う。
ただこんな答えを、誰も求めてはいないと知っているので、俺は言わないでいる。
どうしてサッカーを始めたのか、よく聞かれるようになった。
俺はいつも、曖昧に濁して、当たり障りのないことを言った。
空に消えていくサッカーボールは、陽射しを浴びて煌めいて、まるで宝石のようである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます