第13話 彼女のパンツを見てみたい

 この学校には、超のつく美少女がいる。


 その美しさたるや、高校生とは思えないほど大人びていて、ハリウッド女優かと見紛うほどだ。

 実際俺も初めて目にしたときは、別世界に迷い込んだのかと思って、おもいきり頬をつねってしまった。



 当然痛いだけで、夢から覚めることもなく、絵画のような光景に俺はただただ茫然とした。



 そんな彼女が、いったいどんなパンツを穿いているのか、ある時話題になった。


 いや、彼女だけではない。

 女子の穿いているパンツがどんなものか、つけているブラジャーがどんなものか、話題になった。


 おとなしめのあの子の穿いているパンツはやはりおとなしめなのだろうかとか、ギャルっぽいあの子のブラジャーはやはりギャルっぽいのだろうかとか、逆だったらエロいんじゃないかとか、数人の男子で集まって悶々としていた。



 高校生にもなってなにをと思うかもしれないが、男というのはバカなもので、きっと俺たちは大人になっても似たような話題で盛り上がるはずだ。



 そのさなか、誰かが言ったのだ。

 ハリウッド級の、超美少女の彼女は、どんなパンツを穿いているのだろうと。



 そのさなか、誰かが言ったのだ。




 ハリウッド級の、超美少女の彼女が穿いているパンツを、一度でいいから拝んでみたいと。




 見る方法がないかと言えば、無いこともない。


 この学校の、とある外階段が、絶好のパンチラスポットになっている。

 その外階段は、骨組みに踏板がくっついるタイプで、真下から見上げれば、女子のスカートの中が覗けるのだ。



 実際にその方法で、女子のパンチラを見たことのある男子はたくさんいて、今では女子も警戒感をあらわにしているくらいだ。



 そんなところに、ハリウッド級の彼女が、立ち寄るだろうか。


 彼女ときたら、とにかく男子に対するガードが堅い。

 言葉を交わしたものすらごく少数だし、告白に呼び出そうものなら代理が断わりに来るし、校舎内の階段を上がる時ですらスカートの裾を抑えるのだ。



 だので、彼女が骨組みに踏板をくっつけただけの、簡素な外階段に来るとは、俺には思えないのだ。



 放課後の教室の隅で、皆々妄想するように天井を見上げる。

 ハリウッド級の美少女が、どんなパンツを穿いているのか、夢想する。


 放課後の教室の隅で、皆々妄想するように天井を見上げる。



 子供っぽいパンツでもいいだろうし、大人びたパンツでもいいだろうし、地味なパンツでもいいだろうし、派手なパンツだっていいはずだ。




 一つ言えることとしては、彼女が穿けばどんなパンツだろうと天使の羽衣に昇華し、美しくそしてエロいだろうということだ。




 そして俺は、思わずぽつりと言ってしまった。


 それはつい口先からといってよく、本音ではなかったのだが、しんとした教室に響いてしまった。

 口にした理由を強いてあげるとすれば、俺はグループの中でイニシアティブをとるタイプでなく、すこし見栄を張りたかったのだ。




「パンツを見るだけじゃなく、俺なら実物を盗んできてやるよ」




 マジか――と、男どもは色めき立った。


 絶世の美少女のパンチラなんて、ほんの一瞬目にするだけで射精するレベルだろう。

 それを、穿いた後のパンツが手元に残るなんて、感触も匂いもあるということは、一生オナニーのオカズに困らないはずだ。




 そんな財宝じみたブツを手に入れられるなんて、男たちにとっては英雄だし、神様とあがめられてもおかしくないだろう。




 だからこそ俺は口にしたのだが、しかし無理だということもわかっている。



 パンツーー下着なんてものは、肌身離さず身に着けているから下着なのであって、盗むチャンスなんてものは皆無だ。

 男子だろうと女子だろうと、家に帰って風呂に入るタイミング以外で下着を脱ぐやつが、いったいどこにいるだろうか。


 トイレで用を足すときだってただずらすだけだし、よしんば全部脱がないと用を足せないやつがいたとして、トイレで下着を盗もうなんてのはどだい無理が過ぎる。



 グループの男たちもそれはわかっているはずで、だからほんの冗談だと、俺の一言は空気中に溶けてなくなるはずだった。




 ところが時期が悪かった。




 折りしも季節は夏である。


 体育の授業は水泳で、つまりということは、パンツを脱いでスクール水着に着替える時間があるということである。

 それは授業時間ほんの五十分のあいだだが、プール脇の更衣室にさえ侵入できれば、むしろ長いほどである。


 そのうえ俺たちのグループの中には水泳部の部長が混じっており、彼ときたら更衣室の鍵を預かる立場なのだ。



 彼の持っている鍵を使えば、がっちり施錠しているだろう授業中の更衣室だって、簡単に開けることが出来るのだ。




 つまりハリウッド級の美少女の彼女の、パンツを盗む条件がそろってしまっていて、言い換えれば絶好のチャンスなのだ。




 あれよあれよという間に、俺は祭り上げられ、下着泥棒にされてしまった。


 水泳部の部長から更衣室の鍵を預かり、彼女のパンツを盗みに行くことになってしまった。




 俺としたって、ついとはいえ口にしたことだし、今更断って不興を買ってグループを排除されたくないので、やるしかなかった。




 そして決行日になる。


 ハリウッド級の美少女の彼女の、水泳の授業の時間は把握しており、同刻俺は腹痛を装って、保健室に行くために教室を出る。



 あとは誰にも見つからずに、こっそりプール脇の更衣室に行って、彼女のパンツを盗むだけだ。



 授業中の廊下は、驚くほどしんとしている。

 緊張のあまり俺の心臓はアホほどばくばくしていて、その音が響き渡りそうで、思わず生つばを飲み込む。


 授業中の廊下は、驚くほどしんとしている。

 心臓の音はうるさいし、脂汗はにじみ出てくるし、喉はからからだしで、俺は今にも卒倒しそうだ。



 プール脇の更衣室まで、道程は短いはずだが、それまでに俺は寿命が来るのではないだろうか。



 あとは誰にも見つからずに、こっそりプール脇の更衣室に行って、彼女のパンツを盗むだけだ。




 あとは誰にも見つからずに、こっそりプール脇の更衣室に行って、彼女のパンツを盗むだけだ。




 この学校には、超のつく、ハリウッド女優みたいな美少女がいる。


 そんな彼女が、いったいどんなパンツを穿いているのか、ある時話題になった。


 一つ言えることとしては、彼女が穿けばどんなパンツだろうと天使の羽衣に昇華し、美しくそしてエロいだろうということだ。

 子供っぽいパンツでもいいだろうし、大人びたパンツでもいいだろうし、地味なパンツでもいいだろうし、派手なパンツだっていいはずだ。




 一つ言えることとしては、彼女が穿けばどんなパンツだろうと天使の羽衣に昇華し、美しくそしてエロいだろうということだ。




 やっとの思いで、俺はプール脇の更衣室にたどり着いた。

 経過時間はほんの数分のものだが、何時間も、何年もかかったように感じた。


 水泳部部長から借りた鍵を使い、慎重に、更衣室の中に侵入する。


 むわ――と、湿気にやられきった、かび臭いにおいに襲われる。

 女子たちが使っているからといって、かぐわしい匂いがするかというと、ちっともそうではない。



 こんな密室で着替えなくてはならないなんて、思わず女子に同情するくらい、いやな匂いだ。



 さてと、ハリウッド級の美少女の、彼女の着替えはどこだろう。


 この学校の制服には、胸元に名前が刺繍してある。

 名札みたいで恥ずかしいと、生徒の誰からも嫌われている決まり事だが、この時ばかりはあってよかった。


 俺は犬ではないのだし、畳んだ制服の匂いをかいで誰のものか判別はできないので、名前が書いてあるとありがたい。



 そして俺はとうとう、彼女の物である着替えを探し当てた。




 畳んだ制服の胸元に、確かに彼女の名前が刺繍してあった。




 あとは着替えをまさぐって、パンツを盗んで、更衣室を出て、元通り施錠するだけだ。


 何食わぬ顔で保健室に行って、おなかが痛いんです――と、ベッドを使わせてもらうだけだ。



 さて、ハリウッド級の美少女の彼女は、どんなパンツを穿いているのか。



 それは子供っぽいのか、大人びているのか、地味なのか、派手なのか。




 さて、ハリウッド級の美少女の彼女は、どんなパンツを穿いているのか。






 ある時を境に、わたしがパンツを穿かない派の、変態女だという噂が囁かれだした。

 当然それはでたらめで、わたしは変態ではないし、ちゃんとパンツを穿いている。


 女の子たちは噂を信じないので、友人関係に問題はないし、そんな噂すぐに消えてなくなると慰めてくれるが、男の子たちはそうではない。



 以前からわたしは、視線を集める機会は多かったが、どうにもその視線が、最近へんな熱を帯びている。




 あの目は完全に、あいつってパンツを穿かない変態なんだと、そう言っている目だ。




 わたしは困ってしまっている。

 いったい誰が、そんな噂を流したのだろう。


 わたしは困ってしまっている。



 ただでさえ男の子とはあまり仲が良くないのに、変な噂があるせいで、仲良くなる機会がどんどん失われてしまう。



 だがこの噂は、しかしあながち、根も葉もないとは言い切れないのだ。


 実は、噂が出始めた時期を考えると、わたしには心当たりがあるのだ。



 おそらく、あの日の水泳の授業が原因だ。




 あの日わたしは、朝からの水泳の授業に張り切ってしまって、制服の下に水着を着て学校に行って、替えの下着を忘れるという、小学生みたいなことをやってしまったのだ。




 だから、おそらく、あの日の水泳の授業が原因だ。




 噂の出どころとなった誰かは、わたしがあまりにもじもじして、必死にスカートを隠すので、あいつはパンツを穿いてないんじゃないか――と、きっとそう思ったのだ。




 ある時を境に、わたしがパンツを穿かない派の、変態女だという噂が囁かれだした。


 当然それはでたらめで、わたしは変態ではないし、ちゃんとパンツを穿いている。



 ある時を境に、わたしがパンツを穿かない派の、変態女だという噂が囁かれだした。




 噂の出どころが誰だか知らないが、今なら穿いているところを見せてあげるので、お願いだから撤回してほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る