第12話 バニラかチョコかストロベリー

 アイスクリームを買ったら、好みの味じゃなかった。






 理想というのは、いったいどこにあるのだろうと、たまに考える。


 例えばの話、恋人にするなら、女の子はみんなイケメンがいいだろうと思う。

 しかも性格が優しくて、お金持ちでなんでも買ってくれれば、なおいいはずだ。


 しかし、そんな優良物件など、どこにも存在しない。



 たいていの場合、一個か二個持っていればよく、下手すれば一個も持っていなかったりするので、選ぶのに困難だ。



 イケメンは大抵自分の美しさに酔いしれて性格はよくないし、驕ってもらうのに慣れていて、金払いが悪い。

 性格が優しい人は大抵顔はそうでもないし、優しさゆえに募金箱を見るたびお金を入れてしまうので、貧乏だ。

 お金持ちは金に群がる女たちを相手にしているのでやさぐれてしまっているし、やさぐれているということは、人相だってよくない。


 理想というのは、いったいどこにあるのだろうと、たまに考える。


 例えばの話、恋人にするなら、女の子はみんなイケメンがいいだろうと思う。

 しかも性格が優しくて、お金持ちでなんでも買ってくれれば、なおいいはずだ。



 理想というのは、いったいどこにあるのだろうと、たまに考える。




 理想というのは、どこにも存在しないので、だから理想というのである。




 それでは、理想を追い求めるのは、間違っているのだろうか。


 わたしはそうは思わない。

 むしろわたしは、理想を追い求め、悩みに悩み、迷子になったほうがいいと思う。


 そのほうが、人間は思い知るのだ。


 探しに探した結果、理想などないのだと、思い知るのだ。



 部屋の隅で少女漫画ばかり読んで、夢想してばかりだと、理想はどこかにあると思い込んでしまうではないか。



 だからわたしは、理想を追い求め、悩みに悩み、迷子になったほうがいいと思うのだ。


 その結果、どんどんとがった自分が丸くなり、なんだって受け入れられるようになるのだ。




 顔以外なにも持っていないイケメンだって、性格以外なにも持っていない優しい人だって、お金以外なにも持っていないお金持ちだって、許すことが出来るようになるのだ。




 恋愛とはその先にあるもので、擦れっ枯らしたほうがきっと、幸せになれるのだ。


 結婚とはその先にあるもので、擦れっ枯らしたほうがきっと、幸せになれるのだ。



 だからわたしは、理想を追い求め、悩みに悩み、迷子になったほうがいいと思うのだ。



 その結果、どんどんとがった自分が丸くなり、なんだって受け入れられるようになるのだ。




 顔以外なにも持っていないイケメンだって、性格以外なにも持っていない優しい人だって、お金以外なにも持っていないお金持ちだって、許すことが出来るようになるのだ。






 アイスクリームを買ったら、好みの味じゃなかった。


 理想のアイスクリームを探して、わたしは旅に出ることにした。



 理想というのは、いったいどこにあるのだろうと、たまに考える。



 理想というのは、どこにもないのではなかろうかと、わたしは思う。




 アイスクリームを買ったら、好みの味じゃなかった。



 いまだにわたしは、わがままな自分のことを、許すことが出来ない。

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