第11話 いぢめる
わたしは彼女をいじめている。
理由は特にない。
彼女を見つけたのは、高校二年生になった、クラス替えの時のことだ。
同じクラスになって、わたしは初めて、彼女のことを認識した。
実に、おなじ学校に通い始めて、一年後のことである。
学年全部の教室が同じフロアに押し込められているため、わたしたちは当然、学年の全員とすれ違ったはずだ。
一年間もあれば、一回や二回なんて低頻度でなく、十回も二十回も、顔を見たことがあるはずだ。
だからわたしは、名前や性格や、どんな声をしてるかとかはわからなくとも、学年全員の顔を把握していると思っていた。
だのに、彼女はちっとも、見たことがなかったのである。
いや、見たことはあるはずなのだが、まったくちっとも、頭に入っていなかったのである。
わたしはひどく驚いた。
こんなに印象に残らない人間なんて、いないと思っていたからだ。
たしかに彼女は、フレームの太い眼鏡にセミロングの黒髪と、酷く地味な印象だ。
制服も着崩すことなく、スカートも膝より下だし、靴下も学校指定のものだし、絵に描いたようなモブキャラクターだ。
だけどなんだろうか、わたしは彼女に、非常に興味を惹かれたのだ。
見た目通りの引っ込み思案で、弱気な彼女のことを、常に目で追ってしまうのだ。
だけどなんだろうか、わたしは彼女に、非常に興味を惹かれたのだ。
だからだろう、いじめにつながったのは。
この女を、いじめてやったらどうなるか、気になったのだろう。
眼鏡の下のすました顔を、ひとたびひん剥いてやったら、どんな叫び声をあげるか気になったのだろう。
だからだろう、いじめにつながったのは。
教室の隅でギャルっぽいのに囲まれていたのを無理やり引っ張って、女子トイレに連れ込んで、どかんと壁に押し付けたのは。
そこからわたしはやりたい放題だった。
上履きを隠すなんて古典的なところからはじまって、お弁当を捨ててやるなんてのは日常茶飯事だし、下着を穿かさないで登校させるなんてのもやった。
トイレの個室に入ってるところを上から水をぶっかけてやったし、キモい男子に彼女の名前でラブレターを出すのもやったし、SNSにエッチな写真を投稿してバズらせるなんてのもやった。
そこからわたしはやりたい放題だった。
わたしは彼女を捕まえて、いじめにいじめて、いじめ抜いてやった。
彼女を見つけたのは、高校二年生になった、クラス替えの時のことだ。
同じクラスになって、わたしは初めて、彼女のことを認識した。
こんなに印象に残らない人間なんて、まさかいるのかと、わたしはひどく驚いた。
わたしは彼女をいじめている。
理由は特にない。
強いてあげるとすれば、それは――。
わたしは彼女にいじめられている。
理由は特にない。
彼女を見つけたのは、高校二年生になった、クラス替えの時のことだ。
髪を明るく染めた、派手好きの、ギャルに近いような、近くないような、そんな感じだった。
わたしが彼女に目をつけられたのは、きっと必然だっただろう。
なにしろわたしと彼女は、極端に正反対だったからだ。
派手好きで陽キャで、着崩した制服を着こなした彼女と、読書好きで陰キャで、制服を着崩すことなんて絶対にできないわたしと、まるで水と油だ。
だから、わたしが彼女に目をつけられたのは、きっと必然だっただろう。
なにしろわたしと彼女は、極端に正反対だったからだ。
それから彼女はやりたい放題だった。
はじめは上履きを隠されたし、お弁当は決まって捨てられるので持っていかなくなったし、下着を取り上げられてそのまま登下校しろなんてのもあった。
トイレの個室に入ってるところを上から水をぶっかけられたし、当然振ってやったがキモい男子にわたしの名前でラブレターを出されたし、SNSにエッチな写真を投稿させられてバズってしまうなんてのもあった。
そこから彼女はやりたい放題だった。
彼女はわたしを捕まえて、いじめにいじめて、いじめ抜かれてしまった。
彼女を見つけたのは、高校二年生になった、クラス替えの時のことだ。
髪を明るく染めた、派手好きの、ギャルに近いような、近くないような、そんな感じだった。
ただ、わたしは別に、やり返すこともできた。
彼女は一人きりでわたしをいじめたし、身長も体重もそんなに変わらないし、わたしは小さい頃に護身術として空手をやっていたからだ。
だから、わたしは本当は、やり返すこともできた。
彼女を思い切りぶっ飛ばして、逆にお弁当を捨ててやることもできたし、エッチな写真をSNSに投稿させることもできた。
だけど――。
わたしは彼女にいじめられている。
理由は特にない。
強いてあげるとすれば、それは――。
ベッドの上で逆転すると、とても興奮して気持ちがいいので、だからだろう。
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