第10話 伝説の剣売ります
ドラゴンとは、言わずと知れた、最強のモンスターである。
その強さはまさしく群を抜いており、町や村を襲い、多大な被害を出したギガンテスでさえ、群れになっても敵わないほどだ。
そのためドラゴンは恐れられ、避けられてきた。
ほかのモンスターと違い、機嫌を損ねさえしなければ無害だが、ひとたび暴れだしては国ひとつが滅ぶ可能性すらあるので、無理からぬことだった。
しかし、一方でドラゴンは、憧憬の対象でもあった。
ドラゴンを追い求めるのは、命知らずの冒険者たちだ。
ドラゴンを倒した冒険者はドラゴンスレイヤーと呼ばれ、同業者はもとより、一般国民や市民からも尊敬され、一生食うに困らないからだ。
だから冒険者たちは、危険を冒し、富と名誉のだめ、ドラゴン討伐に精を出した。
しかし長い歴史の中で、ドラゴンスレイヤ―となったものは数人しかおらず、しかもここ百年は一人もいなかった。
ドラゴンの生態は日々研究されており、近く新しいドラゴンスレイヤーが誕生するとも言われてはいるが、まったくの未知数だ。
さて、ある冒険者の話である。
ベテランに差し掛かった、やや年かさの彼もまた、ドラゴン討伐を目指していた。
ある谷の奥にドラゴンがいると知った彼は、谷の最寄りの村に、準備のために立ち寄った。
冒険者景気に期待を寄せたその村は、まさにドラゴン討伐一色であり、冒険者の支援のために様々な店を出していた。
こうしたドラゴンの生息地から近くも遠くもないところに、最近は村や町が増えてきて、冒険者としては喜ばしいことだ。
そのにぎわった村の中で、年かさの冒険者は、ある武具屋を見つける。
なんでもその武具屋は、ドラゴンに特別な効果を持った、伝説の剣を売っているというのだ。
ドラゴンの分厚い鱗を切り裂き、強靭な肉体に傷をつけ、回復魔法のような再生能力を無効化するというのだ。
試しに年かさの冒険者も、伝説の剣を手に取ってみる。
しかし彼の目には、まったく普通の、ちょっと良い剣にしか見えない。
ベテランに差し掛かった冒険者の彼は、それなりに目が利くのだが、それでもちっとも特別な効果とやらがわからない。
また彼は、ドラゴンに通用する剣を追い求めるあまり、数年間鍛冶屋の見習いもやったのだが、それでもさっぱりだ。
それでももしかしたらと思い、武具やで年かさの冒険者は、伝説の剣を一振り求めた。
まずはどの程度のものかと、村の近くでそれなりのモンスターを狩り、威力を確かめることにした。
ところがやはり、この伝説の剣とやらは、普通のちょっと良い剣である。
そこそこの値段がしたので、切れ味もそこそこ良いのだが、その程度だ。
ドラゴンの鱗に近い鱗を持つという、リザードマンにも試してみたのだが、分厚い鱗を切り裂くほどの力があるとは思えない。
もしかしたらこれは、騙されているのではないかと、年かさの冒険者は思った。
もしそうなら、まだほとんど新品なので、剣を突き返して、いくらか料金を取り戻そうと彼は思った。
彼には長年の相棒となった剣があるので、ドラゴン討伐にはそれを使えばいいので、効果のない伝説の剣などいらないのだ。
ドラゴンの生息地から近くも遠くもない村に、彼は取って返す。
伝説の剣を買った武具屋に急いで、店の男に強く問いただす。
「これが伝説の剣というのは本当なのか?まったく効果がないようだが……」
「何を言ってるんですか、本当ですよ。そのうちこの剣を持った冒険者が、ドラゴンを倒すんですから」
たしかに谷の奥のドラゴンに挑もうという冒険者たちは、伝説の名前につられてみんなこの店で剣を買っているが……。
それでドラゴンスレイヤーが誕生したとして、何か違うのではないかと、年かさの彼は思った。
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