第4話 わたしたちは双子である

 わたしたちは双子である。

 わたしたちは男の子と女の子である。


 キスをしたのは偶然ではない。






 人間はみな、ナルシストなのだそうだ。


 男性が母親に似た女性を好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。

 女性が父親と似た男性を好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。



 人間はみな、ナルシストなのだそうだ。



 わたしもきっと、例に漏れない。

 毎朝鏡を見るたび、ほぅ――と、ため息をついてしまう。


 あらまあ、なんとわたしは美しい。



 だから、わたしもきっと、例に漏れない。



 人間はみな、ナルシストなのだそうだ。


 男性が母親に似た女性を好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。

 女性が父親と似た男性を好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。



 それならば、鏡合わせのような兄を見てわたしが思うことは、ひとつきりだろう。



 あらまあ、なんとわたしは美しい。

 あらまあ、なんとわたしたちは美しい。


 毎朝鏡を見るたび、ほぅ――と、ため息をついてしまう。



 毎朝「鏡」を見るたび、ほぅ――と、ため息をついてしまう。




 あらまあ、なんと「わたし」は美しい。




 やがて時は流れる。

 わたしは大人に近しい身体つきになる。


 やがて時は流れる。

 どうやら兄は、恋人を作ったようである。


 相変わらず鏡のわたしは美しい。


 相変わらず「鏡」の「わたし」は美しい。



 どうやら兄は、妥協して恋人を作ったようである。




 彼女のわたしを見る目はいつも優しく、怒ったような笑顔の、腫らしたような泣き顔だった。




 人間はみな、ナルシストなのだそうだ。


 男性が母親に似た女性を好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。

 女性が父親と似た男性を好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。


 人間はみな、ナルシストなのだそうだ。



 わたしたちはみな、ナルシストなのだそうだ。



 男の子が血の繋がったお姉ちゃんを好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。


 女の子が血の繋がったお兄ちゃんを好きになるのは、自分と似ているからなのだそうだ。



 妥協して作った兄の恋人が、わたしを警戒しているのは、どうやらそのせいからなのだそうだ。




 安心するといい、どうせ結ばれっこないものを、奪い返そうとする趣味はわたしにはない。






 わたしたちは双子である。

 わたしたちは男の子と女の子である。



 キスをしたのは偶然ではない。



 わたしたちは双子である。


 わたしたちは男女である。




 キスをしたのは、偶然ではない。

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