第3話 虹を作った話

 ペットボトルの水があったので、わたしは窓からばらまいた。


 三階の窓から放たれたそれは、飛沫となって虹を作り、なんとも綺麗だった。






 人間という生き物は、明るいところばかりを歩いていられないらしい。

 品行方正に品行方正にと努めてはみるが、誰かに足を引っ張られ、はたまた誘惑に負けてしまったりして、暗闇に引きずり込まれるのだそうだ。

 最初のうちは抗い、明るい場所に戻ろうとするものの、何度も繰り返されるうちにどうでもよくなり、すっかり暗闇の住人になるのだそうだ。


 そうして人間とは、ほとんどが暗闇に生きることになり、明るい場所にいるのなんて、ほんの一握りになってしまうのだ。


 だけどそれは、もしかして仕方のないことではないだろうか。

 いやだって、品行方正なんていうのは、だって疲れるではないか。


 真面目にやっていたって、褒めてくれるのは先生や上司ばかりで、大切にするべき友達や同僚からは煙たがられるだけではないか。


 しかも先生や上司が褒めてくれるのは、余計な手間がかからないからであって、感謝が返ってくるどころか、面倒ごとを押し付けられるばかりではないか。



 それならば不良になって、裏道をみつけて手を抜いてしまって、遊びごとに手を出したほうが賢いではないか。



 だからわたしは思うのである。

 人間が暗闇に落ちてしまっても、それは仕方のないことだと。


 さて、翻ってわたしはどうだろうか。


 わたしは実は、割と真面目にやっているほうだ。

 なんだかんだと言い訳をつけてはみたが、暗闇の住人になってしまった人たちに文句を言うつもりはないが、やはり明るいところを歩いたほうが気分がいいと思うのだ。


 だから、わたしは実は、割と真面目にやっているほうだ。



 小学生のころから学級委員長には必ず立候補したし、中学生のころには生徒会に所属していたし、高校生となった今でも悪さをする生徒を叱りつけているくらいだ。



 そりゃあ、暗闇に引きずり込まれそうになることは、多々ある。


 小学生のころは、友達がやんちゃな子たちばっかりだったので、買い食いに付き合わされないようにするのが大変だった。

 中学生のころは、友達が大人ぶりたい子たちばっかりだったので、お酒や煙草に付き合わされないようにするのが大変だった。



 そりゃあ、暗闇に引きずり込まれそうになることは、多々ある。




 高校生となった今では、そこそこそれなりに立派にやっているとは思うが、どうだろうか、うーん、よくわからない……。






 人間という生き物は、明るいところばかりを歩いていられないらしい。

 品行方正に品行方正にと努めてはみるが、誰かに足を引っ張られ、はたまた誘惑に負けてしまったりして、暗闇に引きずり込まれるのだそうだ。

 最初のうちは抗い、明るい場所に戻ろうとするものの、何度も繰り返されるうちにどうでもよくなり、すっかり暗闇の住人になるのだそうだ。


 だから、人間という生き物は、明るいところばかりを歩いていられないのだそうだ。



 一人でいるほうが楽ちんだとか、弱い人にばかり強い奴は嫌いだとか、暗闇の中から死に物狂いではいつくばって逃げ出したりとか、シャープペンシルの芯が折れてしまったのでもうやめた。




 なんにせよもう、なるようにしかならんのだということで、考えるのもばからしいくらいだ。






 ペットボトルの水があったので、わたしは窓からばらまいた。


 三階の窓から放たれたそれは、飛沫となって虹を作り、なんとも綺麗だった。




 いじめっ子たちが水をぶっかけられたと、なんだか騒ぎになっていたようだが、酷いことをする奴もいたもんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る