第32話 神誕

「プロメテウスキャノン」


「…否定する」


もう何度目かわからない、奴、「核熱の使徒」が放ってきた、極太のビームを「否定者」で打ち消す。


「…はぁ、これでは埒があきませんね」


「全くだね」


思わず敵の愚痴に賛同してしまうほど、さっきから状況は動かない。


…本当は分かっている、どちらかが踏み込めば勝負は決することに。


しかし…それをするとまあどちらかは死ぬだろう。


俺は後藤会長から事前に教えられている、ダンジョンの真実を。


まあ、だからこんな戦い、正直茶番でしかないだろう。


負けた方が勝った方の傘下に入り、異世界からの「救世主」に仕えるため備える。


結局、俺たち冒険者協会とアパスルは人類を消極的に見捨てるか、積極的に見捨てるかの違いでしかない。


…所詮、俺達の力は「救世主」とやらから分け与えられた力に過ぎない。多くの人類を見捨てることに大きな罪悪感があるが、仕方ないだろう。


切り捨てられる人類は人を越えるという願望を持たなかった、向上心のない連中だ。どうせ定命の者たち、いずれ土に帰るのだから。


「空狼さんが現れるか、代行者さんが現れるかで、私たちの運命は決まるのですから、こんなの茶番ですね」


「はは、全くだ」


「なるほどね、理解した」


ん?この声は


「あーあ、代行者さんの勝ですか」


お嬢ちゃんの声、振り向くとそこにはなぜか冷めた目をしたお嬢ちゃんが、ということは探索者協会の勝利かな。


「やあ、お嬢ちゃん、君が来たってことは」


「安心したよ、おっさん」


「え?」


「あんたはどうやらちゃんと人類の裏切り者の屑ってことでいいんだよな」


お嬢ちゃんは…何を言っている?


「…憂国の使徒」


「ここにいる、先輩殿」


「状況は?」


「ふむ、こ奴ら、あまりにも消極的で吾輩は手を出しあぐねていたのだ」


…なぜお嬢ちゃんと憂国の使徒が普通に会話している?憂国の使徒が降伏したのか?


「…なあ、おっさん」


「…何だい」


「姫川と一条は…執行使徒と相打ちになって死んだぞ」


あえ?


「何を…言っているんだい…?」


そんなことはありえない、だって彼ら彼女らも探索者のはず。だから。


「はは、冗談はよしたまえ、お嬢ちゃん」


「そうですよ、代行者さん?探索者が相打ちなどと」


「もう一度言おうか…安心したよ、あんたが私と同じくらい屑で…インダイレクトデモクラシー」




―バッ




いつの間にか天使のようになったお嬢ちゃんが目の前にいた。


これは!よくわからないけど、まずい!


「否定す」


「僕相手に反応が遅すぎるよ、おっさん」














僕はそのままおっさんを殴りつけ昏倒させる。一人目完了。


「プロメテウスキャノン!」


突如とんできた、極太の閃光をてきとうに手で払いのける。


それだけで、閃光は消え去る。


「…なにが目的ですか!?代行者!」


「えーと、あんたは核熱の使徒だっけ?」


こっちもさっさと制圧してしまおう。


「…く、かくなる上は私の奥義を」


「ああ、核熱の使徒さん、あなたの役目は終わりましたよ」


僕が制圧しようと動く前に、転移してきた空狼が核熱の使徒の首筋に手刀を叩き込む。


それだけで核熱の使徒も昏倒する。


…あっけなかったね。


「樹さん、僕の方は後藤会長の制圧と能力簒奪が完了しました」


「ああ、僕の方も完了したよ、全員死んだからね」


「…はい?」


「…うむ?」


空狼と憂国の使徒が僕の話を聞いて困惑している。


「ああ、姫川は僕を助けるために、一条は己の生き様のために…それぞれ相打ちに持ち込んだ」


「…なぜ、ですか」


「さあね、でも一つ解ることは僕は「最悪の裏切り者」になったてことだね」


ああ、本当にね。


「…先輩殿」


「憂国の使徒、君が言っていた格言に当てはめると、僕はどうやら愚者未満の存在らしいよ」


「…まさか、そんなことが」


空狼は目を見開き驚愕する。


そして、目を閉じて天を仰ぎながら。


「とりあえず作業を完了したらいったん外に出ましょう」


そう言った。








ダンジョンの外に出て代行者の能力を解除した、私に襲ってきたのは猛烈な後悔と罪悪感。


そのまま私はへたり込む。


「…はは、私は」


ああ、なんか、もう消えてしまいたい。


「…樹さん、話があります」


いまさら話?


「…なんだよ、もう全探索者の能力をお前が簒奪したから終わりだろ」


「いえ、残念ながら、そうではありません、あなたはこれから僕を倒してもらわなければなりません」


…は?


「何を…言っている」


「先に謝っておきます、私は意図して情報を隠していました」


「だから、なにを!?」


「この世界の意志は侵略者と取引をしたのです。取引内容は簡単、すべての探索者の能力を取り込んだ僕と、「探索者」としての願望を持たない残りの人類の代行者たるあなた…僕が勝ったら世界は侵略され、あなたが勝てば侵略されない」


こいつは…何を言っている?


「あなたが勝てばあなたはこの世界の管理者となる、つまり神の誕生、即ち「神誕」です」


つまり空狼を殺せと??醜い裏切り者の上に殺人者になれと?


そのうえで私は人間じゃなくなるのか?


…やっぱりただの道化じゃないか私。


お前ら、お前ら、私をどこまで追い詰めれば気が済むんだ。


ああ、ああ、ああ!


やってやろうじゃねぇか!もう何もかもどうでもいい!


「インダイレクトデモクラシー!」


「…話が早くて助かりますね、では始めましょう、僕は手加減できなくなっています、全力でいきますよ」


はは、もういいや、ぶっ殺してやるよ。


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