第31話 答えはNO

「クソッ何だってんだ」


突然地面が光ったと思ったら、浮遊感を感じた後、無駄にでけぇ空間にいた。


「ここは、なんだ?」


「やあ」


!?声、だれだ!?


慌てて声の方に振り向くとそこには、いつの間にか、仮面を被った長身の男が一人。


「うん、君は確か、「粉砕者」一条猛くんだったね…僕は執行使徒のひとり、「銃の使徒」だよ、よろしくね」


「執行使徒だと?」


くそ、やはり罠だったか、見事に分断されちまった。


「うん、自己紹介は終わったね、ならさっさと始めてしまおうか」


…銃の使徒、名前からして明らかな遠距離タイプか…くそっ、最悪な相手だな…。


「おいで、コルトシングルアクションアーミー、m1911」


奴が両手を掲げるとその手に2丁の拳銃が現れる。


一方は古風なリボルバー、もう一方は大型のオートマチック拳銃。


まあ、十中八九ただの拳銃ではないのだろうな。


「この銃はそれぞれ、銃大国である、米国を代表する拳銃でね、シングルアクションアーミー、通称SAAは伝統の象徴、M1911は力の象徴と言ったところだね」


なんか語りだしたな、なんなんだ、こいつは


「そして銃は米国の独立の象徴であり、分断の象徴であり、怒りの象徴なんだよ」


「何を突然語ってやがるんだ!ポエム野郎、食らえ!」


俺は素早く懐から取り出した球体を奴に投げつける。


「礼儀がなってないね、全く…」


奴はその球体を空中で撃ち抜く…かかったな!


「む、これは」


撃ち抜かれた球体は猛烈な勢いで煙を発し始めあたり一帯の視界を奪う。


「煙幕…なるほど、考えたね」


は、余裕ぶっこいて居ていられるのも今の内だ!


前にも言ったが俺はもともと、斥候だ。


つまり、この視界を奪った状況は俺にとって圧倒的に有利だ。


俺は憂国の使徒との戦いで自分の弱点を再確認した。


俺に正面からの戦闘は無理だ。ゆえに原点回帰することにした。


つまり、ステルスからの強烈な一撃を叩き込むスタイルだ。


知ってるか、最近のアクションゲームではこの戦法が大体最強なんだぜ?


俺は素早く奴に接近する。


「でも、君は一つ勘違いしている」


奴の戯言は無視する、あと少しで「粉砕者」をぶち込める!


「言っただろう、銃は米国にとって怒りの象徴であると」


あと少しだ!


「つまりね…僕はその怒りを…代行することができるんだよ」


代行?それは樹の…。


「リバティインパクト」


煙幕の中奴は拳を地面に叩きつける。あっ?何が狙いだ??


その瞬間。




―ドバンッ




奴が拳を叩きつけた地面を中心に衝撃波が発生する。


「ぐおっ!」


俺は数メートル吹き飛ばされるが、なんとか着地する。


だが…。


「やあ、さっきぶりだね」


煙幕が、吹き飛ばされて視界がクリアになっていた。


コイツ、拳を地面に叩きつけた反動だけで煙幕を払いやがった!


「君の戦法は知恵なき魔物には有効だろうけど、生憎、知恵と力を兼ね備えた存在に使うのは短絡的だと言わざるを得ないね」


…クソっどうする!


「…まあ君をこのまま撃ち殺してもいいんだけど、君はどうも接近戦がしたいみたいだからね、付き合ってあげるよ」


そう言うと奴は拳銃をホルスターに差し込み無手になり。


…なめてやがるな、俺を…後悔させてやるよ。


「俺の「粉砕者」はあらゆる防御を粉砕する、食らえ!」


俺は拳に「粉砕者」の能力を込め、奴に殴りかかる。


「確かに…君の能力はあらゆる防御を貫通する…でもね…当たらなければ意味がないんだよ?」


そう言った奴の姿が突然ぶれる。


そして俺は背中に強烈な衝撃を受ける


「がっはっ」


そのまま吹き飛ばされ、地面に無様に転がる。


「まあ端的に言うと、遅すぎるよ、君?…僕の能力はすべての米国民の怒りを代行する、つまり僕のあらゆるステータスは常人の3億倍になっているんだよ」


く…そ…っどいつもこいつもふざけた能力しやがってっ…!


「君の能力は調べたよ、拳にしか粉砕者の能力を乗せられないらしいね」


そして奴はいつの間にか俺の目の前にいて、そのまま俺の首を掴み持ち上げる。


「ならこうしてしまえば、君はもう何もできないね」


…はぁ、結局俺は、こうなるのか


「うん、同じ探索者の縁だ。君が僕らの味方となる契約をスキルで結べば命は助けてあげるよ」


はっ、敵に情けを掛けられる始末だ、ほんといいとこないな、俺。


…仲間になれば命は助かる、か。




―その願望は…自分以外の人すべて見殺しにしてでも、なのか?―




ふと、樹のあの問いが思い浮かぶ。


ああ、そうだな、あの時、俺は沈黙を選んだな…きっとお前はそれを肯定と受け取ったんだろうな。



…だがな。


「お前は、イキっている割に…不勉強だな」


「?何を言っているんだい」




―私は取り繕いは求めてない、本音が知りたい―




あの時は沈黙を選んだ、でも、今追い詰められて、わかった。


「別に…俺の能力は…拳しか乗せられないわけじゃねぇ!…スーサイドクラッシュ!」


俺の答えはNO、だっ!


「な、に!?」


俺の粉砕の権能が俺の体を伝播して奴の体に入り込む。


慌てて俺から手を放すが…もう遅いぜ?


奴の体が…粉砕者の権能によって崩壊していく


「あがががっ!僕の体が、なぜだ!?僕の調べでは!?」


「だから言ったんだよ…不勉強だって」


そして…能力の反動で俺の体もまた崩壊していく。


俺の使徒スキル「粉砕者」は拳以外にも乗せられる…ただしその場合、反動で俺の体にも同等の効果が表れる。


「相打ちだと!?…く、狂ってる!仮にも探索者が!」


ああ、そうだな、俺たちには、生への強烈な執着がある。だが…。


「今の、俺は、生き様を重視するんだよ」


それが俺の答えだ。


「うわああああああ、ああああ!」


そのまま奴の体は粉みじんになって崩れ落ちる。


はは、ざまぁ、ねぇな。


…さて次は俺の番だな。


俺の体にひびが入り崩れ始める。


俺は目を閉じようとして…。


「私は…わからないよ」


声がした、その声は


「いつ、き?」


樹の声だ、そちらを向くとそこには樹が立っていた。


「…なぜ、そこまで死に急ぐの?お前らは生に執着していたはずでしょ…?」


なぜ樹がこの場にいるのかわからない、だが…


「ああ、そうだな」


お前ら、ということは俺と同じような選択をした奴がいたんだろうな。


「じゃあっ!なんでっ!」


「そんなの、簡単だ…死にたくない、だが、それ以上に、お前らを裏切るのは、かっこわりぃからな」


「裏…切る…?」


「だから、樹、まだ幼いお前にこんな重荷を背負わしたくはなかったが…」


「なにを…」


「あとは任せたぜ、あばよ、樹」












そう言い残して、体が崩れチリとなった、一条。


…私は、きっと、どこかで、決定的に、何かを、間違えたのだろう。


その結果がこれだ。


最初から姫川と一条にすべてを話し、協力関係を結んでいれば、こんな結果にはならなかったのだろうか。彼らを、仲間を信用していれば。




―愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ―




ああ、そうだね、私は経験からしか、自分で視たものからしか学ばなかった。


人の願いを視たくらいで、その人のすべてが理解できるわけがないのに。


…ああ、そもそも、姫川の亡骸の前で呆然としている時間がなければ、一条は助かっただろう。


…なら私は、経験からですら、学べてないじゃないか。じゃあ私は愚者ですらない。


ああ、そうだ、こんな自己批判と自己陶酔に甘んじている場合ではない。この間にも誰かが一条や姫川と同じ選択を取っているかもしれないからだ。


「転移」


もう、さっさと、すべて終わらせよう。

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