第30話 答えはYES
「ここは!」
突然、床が光ったと思ったら、いつの間にか、なんか広い空間にいるんだけど!
「…姫川、無事か?」
「樹ちゃん!」
樹ちゃんだ!どうやら私と一緒に転移?されてきたみたいだ。
よかった、樹ちゃんはとても頼りになる子だ。年下の女の子にとよるのは少しかっこ悪いけどね。
「…我の相手は…貴様らか?」
突然の男の声、私は驚いて、そちらを見る。
そこには…全身、真っ赤の人型のなにかが…
「あなた、何者」
「我は血の使徒、それだけだ」
血の使徒…つまり執行使徒のひとりね!
やっぱりあれは執行使徒達の罠だったわけ。
「樹ちゃん」
「…ああ」
でも、相手も馬鹿なことをしたね、こちらは二人、相手は一人、これはこちらが有利だ。
「…ふむ、いくら我でも『代行者』を相手にするのは無理だな…ならば」
奴が片腕をこちらに向けてくる。
何か来る!
「ブラッディエルダーバインド」
奴がそう唱えると赤い光が飛んできて。
まずい魔法障壁を…く、早い。
そして、赤い光は私を素通りして…樹ちゃんの方に…えっ!?
「樹ちゃん!」
「…む」
なぜか反応が鈍い樹ちゃんはそのままその赤い光を食らい…全身を赤いツタのようなもので縛られる。
「我の奥義、ブラッディエルダーバインド…一回限りしか使えんが、どんな相手でもしばらく拘束できるのだよ」
「なにそれ、ずるい!」
…まずいわね。
樹ちゃんはどうやら話せもしない様子だ。これは…
「さて…叡智者だったか…戦おうか」
「くっ…ファイアーボール×1000」
私は素早くファイヤーボールを展開する。
そして…
「発射!」
奴に向けて…放つ!
「ただの数だけの魔法か…「叡智者」なるもの…期待していたがこんなものか…ブラッディシールド」
殺到するファイヤーボールに対して奴がそう唱えると、奴の周りに赤い半透明の障壁が現れる。
ブラッディシールド、つまり血液でできた障壁ね!
―ドバンッ
1000の火の玉が奴に直撃するが…
「たわいもない」
奴は無傷…でも!
「アイシクルランス×1000!」
さらに奴に1000の氷の槍をお見舞いする。
「まあ、そのような…うむ?」
そのままアイシクルランスは奴の赤い障壁に衝突し…奴の障壁を…凍らせる。
「その障壁…血液でできているのでしょ?」
なら凍るはずだ!
「ふむ?それでどうするのだ?」
奴は動けないのに余裕の様子だ、むかつく!でも
「決まってるわ!」
動けない奴に…最大火力を…ぶち込む!
「マキシマムファイアーボール!」
私の頭上に、1メートルほどの火球が出現する。
これが私の…魔力で出せる範疇での最大火力…一条君が言うには低出力核爆弾?レベルの威力らしい。
「くらいなさい!」
それを、動けない奴に向けて…放つ
「叡智者」の権能の一つに自分の魔法では傷つかないという物がある、だから遠慮なくぶっ放す、もちろん樹ちゃんには障壁を張る!
―ドガッン!
爆発音とともに強烈な閃光があたりを包み込む。
「くっ…さすがに眩しいわね」
そして爆風が吹き抜けた後には…
半分になった、赤い人影、やったか!?
「見事である」
…!あの状態で…生きているの!?
「…だが、甘い」
―ボコッ
奴の体の断面に赤い泡が出現し、それが増え、肥大化し…
「…うそでしょ」
その泡が弾けると、奴の半身は、復活していた。
「マキシマムファイアーボールとやら…ただの魔法をあそこまでの威力にできるとはな」
完全に奴は…復活している!?
「しかし…我には届かなかったようだな」
「っ!?ファイア…」
「二度も同じ手を食らうわけなかろう」
奴はいつの間にか私に肉薄していて…!?
そのまま私を掴み、地面に叩きつける。
「あがっ!」
ぐ…やばい…骨が…何本かいったね…こ…れ。
これは…私、このまま…殺される…の?
それは…嫌だ…私は人間を越えて…だから。
「ふむ、同じ、選ばれた者同士だ、そのまま地面に這いつくばっていれば命までは取らんよ」
このまま、にしていれば…私は…助かるの?
「だが、「代行者」は危険だ、奴は動けないうちに殺す」
…!樹ちゃんを殺す?
私は何とか立ち上がろうとするが。
「…聞いていたか?立ち上がったら…お前も殺すぞ?」
「っ!?」
私は…足掻くのを…やめる。
樹ちゃんの方を見る、彼女はなぜか冷めた目でこちらを見ている。そこに絶望の色はない。
…そうだ、きっと樹ちゃんにはなにか手があるんだ…だから。
だから…私は…このままでいいだろう。うん、そうだよ、それでいいっ。
もし樹ちゃんにその手がなくても…ごめん、だって私。
私は、こんなとこで死ねない!私は人を越えて、そして寿命から解放されて!それのためだったら、なんであろうとも!
―その願望は…自分以外の人すべて見殺しにしてでも、なのか?―
!?
私の脳裏に突如、樹ちゃんの言葉がよぎる。
そういえば、私はまだあの時の答えを答えていなかった。
…私がこのまま樹ちゃんを見捨てたら…見捨てたら。
あの時の私の答えはYESなのだろう。
そう…私は…
―私は取り繕いは求めてない、本音が知りたい―
これが、この答えが私の本音なのだろう。
ああ、そうなんだ、私は醜い、どうしようもないほどにね。
…
…
…でもね
…でも
血の使徒が動けない樹ちゃんに腕を向ける。
…でも!
―ガッ!
私は奴の足を掴む。
「むっ…何の真似であるか?」
私はっ!私はっ!
どれだけ、どれだけ醜い願望を持っていようと、渇望してようと!
「目の前で殺されそうになっている女の子を見捨てるほど…醜くなったつもりはない!」
樹ちゃんが目を見開いてこちらを見ている。
…奴に奥義があったように私にも奥義がある一回きりの。
その魔法は私の体の一部の質量を直接エネルギーに変換して爆発させるというもの。私は…体の半分の質量をエネルギーに変える!
「!?叡智者、何を」
く、ら、え
加減なんてしない、奴はここで滅ぼす!
これが私の最強最大最後の火力!
「ニュークリア…ウィンター!」
「まて!姫川!?」
自分の体半分が、強烈な閃光とともに…はぜる。
私は血の使徒と姫川の戦いを冷めた目で見ていた。
一度、姫川が奴を仕留めたと思ったが奴は復活した。その後は姫川は瞬時に叩き伏せられた。
奴の脅しは探索者にとってかなり効果的だろう、姫川が動くことはない…か
さて…しばらく動けないが、空狼の情報から、こいつの攻撃力では私の防御は破れない、しばらく耐えてれば大丈夫だろう。
なんて考えていた時
―ガッ!
倒れていた姫川が奴の足を…つかんだ。
っ!?な
「むっ…何の真似であるか?」
奴も困惑したのかそう問いかける。
すると姫川は
「目の前で殺されそうになっている女の子を見捨てるほど…醜くなったつもりはない!」
…え?
どういうことだ?
なぜ姫川は…動いて
「ニュークリア…ウィンター!」
なにかがまずい気がする!
「まて!姫川!?」
―ピカッ、ズガァーン!!!
突如発生した強烈な閃光と爆発。
「くっ」
爆風が吹き抜けた後、灰が雪のように舞う空間。
その場には血の使徒の姿は跡形もなく、姫川が倒れているだけだった
と、いままで私を拘束していた、赤いツタがはがれる
「姫川!」
私は急いで姫川に駆け寄る。
そこには…
上半身だけになった姫川が横たわっていた。
「姫…川!」
「あ…はは…樹ちゃん」
姫川の体の断面からは焦げた臓物がとびでている。
まずい、まずい、まずい、まずい。
「ひ、姫川、今すぐ」
「…ねぇ、樹ちゃん、私、使徒スキルの、奥義を使ったの…だから、ダンジョン産のアイテムでも、直せない」
…つまり、姫川はこのまま、死ぬ、と?
「な、なんでだよ!お前ら人を越えたいんだろう!なぜ!?私は視た!探索者の持つ生への執着を!お、お前らが命を…」
「昨日の問いに、答えて、なかったね」
「へっ?」
突然何を
「答えはYES、私は人を越えるためなら、あらゆる人を見捨てる、でもね…」
「…」
「仲間の、年下の、女の子を、見捨てるなんて…そんなかっこ悪いこと、できっこない」
そんなの
「…矛盾、している」
「そう…かな、でもね、わた…しは、わ…た…し…は…」
「おい、姫川?姫川!」
そのまま、姫川の目から光がなくなり。
姫川は…死んだ。
彼女が再び動き出すことは未来永劫…ない。
計画では追い詰められた探索者は命乞いをしてでも生き残ることを選ぶ、というのが前提だった。
私はわからない、なぜだ?私は視た、彼ら彼女らの生への執着を!生きることへの渇望を、なのに!
姫川は、たった数日の付き合いの私のために…死んだ?
姫川は、私の裏切りを知らないまま死んだ?裏切った私を守るために死んだ?懸ける必要のない命を懸けた?
ああ、ああ、ああ!
「くそったれがああああああああああ!あああああああああ!」
なにが、願いを視ただ!私は…なんにも視えていなかったじゃないか。
私は、私は、人類の裏切りものとしていた探索者たちよりも、ずっと、ずっと、傲慢で…醜いじゃないか。
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