第29話 決戦の時、暗躍の時

僕はこの世界にダンジョン…「エルダーラビリンス」が出現したことを受けて作り出されたもの「空狼」。


だから僕に特にバックボーンはなく…ただ世界の破滅を阻止するために存在します。


「さて、そろそろ分体を解除しますか」


僕が放った分体「小山春樹」。役割を終えたのでさっさと回収してしまいましょう。


「分体解除」


そう呟くと、「小山春樹」は消失し…


『ねぇ、僕の本体…空狼さん』


…分体が話しかけてきた?なぜ…?


『僕は世界を救うために生み出された…だから消えることに文句はないよ…でも、どうかどうか』


「…どうか?」


分体が話しかけてくるなど、僕の知識にはない。それになにか願いが?


『どうか…樹姉さんを…悲しませないでほしい』


…悲しませないでほしい…ですか。


分体が解除され「小山春樹」の記憶が僕に流れ込んでくる。僕と「小山春樹」は「一体」となります。


…これは。


小山春樹、つまり僕の魂の一部は…。


「たった数日の交流だったのに…彼女を信用し、信頼し、親愛を抱いていた…なんだ、なんですかこの感情は」


僕は困惑します。


僕は…どうやら…この手のものに無意識ながら渇望を抱いていたようですね。


僕の「分体」は…いや僕は…たった数日の間だけれども…確かに満たされていた…そういうことですか。


ですが…。


「約束を…守るのは難しそうですね」


なぜなら…これから「神誕」が控えているのですから。


















「…ここが…奥多摩ダンジョンか」


「なんか…物凄く森の中って感じだね」


姫川の言う通り、奥多摩ダンジョンの入り口は森の中にぽつんとあった。


この近くには小河内ダムというダムがあるらしい。


「…みな、いいか、ともかくはぐれんように注意するのじゃ」


後藤のじいさんが言う。分断されて各個撃破されたら大変だもんなぁ。


…まあどうせ分断されるんだけどね


『…空狼』


私は念話で空狼に連絡する。


『はい…こちらでは事前に重火器の使徒の排除に成功しました、計画では…』


どうやら人数合わせの関係で事前に「重火器の使徒」は能力を簒奪されたみたいだ。


まあ、なんか「銃の使徒」と名前でキャラかぶっていたし…いやそれは関係ないか。


空狼が詳しい作戦内容を説明する。


基本的に執行使徒とイスカリオテの騎士団の面々で一対一をしてもらう予定だ。




空狼VS後藤じいさん


核熱の使徒VS古館おっさん


銃の使徒VS一条


血の使徒VS姫川and私




という感じだ。


私の「代行者」には時間制限があるので、できるだけ潰しあってもらう。


私と空狼と憂国の使徒にのみダンジョンを自由に転移できる権限がある。


…私はまずは血の使徒と姫川を鎮圧する。そして次は重火器の使徒と一条を鎮圧する。


「…ではいくぞ」


後藤のじいさんが号令をかける、さあ作戦開始だ。








「ふむ、行き止まりか?」


「…罠かもしれません、警戒しましょう」


奥多摩ダンジョンに入った私たち5人。


着いたのは学校の教室ほどの空間。


「古館さん、ここは?」


「さあ?なにが狙いなんだか…」


謎の空間に私以外の4人が困惑している。


『空狼、到着した』


『了解です…こちらも準備が完了したので、始めちゃってください』


…じゃ、さっさと始めちゃおう。


えーと確か魔力を注ぎ込んで。


「…ん?お嬢ちゃん、どうしたんだい?」


おっさんが問いかけてくる


「…いや、魔力を流したらなにかあるかなーて」


「ふむ…なにか違和感は」


「いや、特にないね」


おっさんにてきとうな言い訳をしながら。


転移魔法陣を起動する。


―カッ!


そうすると床が突如、光りだす。


「なッ!」


「ぬっ!」


「なにっ!」


「えっ!」


そして私たち五人は、それぞれの場所へと転移される。












ここは奥多摩ダンジョンの一室、なかなかに広大で…全力を出せそうです。


と、地面の人物が光り


「…ここは、どこじゃ」


一人の老人が転送されてきました。


「こんにちは、後藤健司さん」


後藤健司、冒険者協会のドンであり、一番厄介だと思われる人物です。


「…空狼、お主」


「ああ、僕の分体がお世話になりましたね」


「分体…まさか小山君は、お主の…」


「ええ」


「…疑問がある」


「なんですか?」


「転移魔法陣は…起動者がそこに居なければならないはずじゃ」


まあ、もうこの老人はここで探索者のすべて、すなわち探索者としての記憶も奪うので話して問題ないでしょう。


「ええ樹さんは完璧に仕事をこなしてくれました」


「…!?まさか…小池君が…裏切ったと」


「裏切り者は、樹さんではなくあなた達でしょう…特にあなたはすべてを知っていた」


「…なるほど、そういうことじゃったか」


老人がどこからか取り出した槍を構える。


「…お主にはここで死んでもらおうぞ…我々の未来のために」


我々の未来ですか…一体人類のどれ程がその「我々」にはいっているのでしょうかね?


「不可能だと思いますが」


後藤健司、彼は厄介でしたが、ここまで追い詰めてしまえばあとは簡単です。


僕は待っていたスーツケースをねじれた大剣、いわゆる「フランジュベル」に変形させます。


さて、さっさと終わらせて次に取り掛かってしまいましょう。


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