第28話 沈黙
「クソー!まさかあの野郎、地雷なんて仕掛けていたのか!ふざけやがって!」
「まあまあ一条君、あいつは樹ちゃんが撃退したから!」
地雷にまんまとひっかかったのが余程に悔しかったのかいきり立つ一条。それをなだめる姫川。
まああれはしょうがない、まさかダンジョンに対人地雷を持ち込む奴がいるとは普通思わないし。
ここはいつもの探索者病院、一条の怪我は幸いにも軽症だが一応入院している。まあ、明日には退院するらしいが。
「…俺にはその後に起こったことも謎だぜ、樹」
「…なにが」
「なんであいつは一時的にお前をさらったのか、だ」
「それは言っただろ、私を勧誘してきたから「代行者」の力でふきとばしてやったぜ」
「勧誘ねぇ…お前を空狼さん対策として、ということなのかね…使徒スキル「代行者」とんでもなく強力だって話じゃねえか、樹」..
「…」
「?おい樹」
「…ねぇ、一条、姫川、唐突だが」
「うん?」「なんだ?」
「お前らは人を越えたいっていう願望を持っているんだろう」
「ああ」「…うん」
「その願望は…自分以外の人すべて見殺しにしてでも、なのか?」
「!?」
「!?」
「…どうなんだ?」
「は!そんなのきまっ」
「…私は取り繕いは求めてない、本音が知りたい」
「…それは」
「…その」
それっきり姫川と一条は黙り込んでしまった。困惑したような、
はぁ。
沈黙…すなわち…消極的な肯定だ。
は、私は何をやっているのか、彼らの「執着」を考えればこれは当然のことだからな。
まあでもこれで覚悟はできた、人類の裏切り者には探索者としての能力を喪失してもらおう。
沈黙する病室の中、私は覚悟を決めた。
樹ちゃんが突然、私たちにとって唐突でとんでもない問いかけてきた。私は…もし私以外を見捨てれば人を…超えることができると言われたら…。
私は…どうするんだろう。
…そもそも私はなぜ人間から進化することにこんなにこだわっているのだろう?
わからない、わからないけど…自分の中のその渇望はかなり強いことはわかっている…じゃあ、それはなぜ?
…うん、なんか怖くなってきた、いったん落ち着こう。
この問いの答えを出すのはなぜか今ではない気がするから…。
私は答えを出さないまま「沈黙」を選んだ…しばらくそうしていたら、病室の引き戸が勢いよく開かれた。
沈黙した病室。
私も一条や姫川のように沈黙を保っていた。
と、その時
病室の引き戸が勢いよく開かれた。
現れたのはおっさん。
おっさんは焦った様子であった。
「古館さん?そんなに焦ってどうしたんすか」
「君たち…少しまずい事態になった」
「「まずい事態?」」
「ああ、端的に言うとアパスルが動く」
…とうとう来たか。
「!?なぜ…」
「どうやら、空狼が…寝返ったようだ、田中が空狼に襲われ、探索者としての能力を奪われた」
どうやら空狼は先日ダンジョンであったおっさんを襲撃したようだ。
あのおっさん、一匹オオカミって感じで決戦に出てくるか未知数だったもんな…不確定要素は先に潰したのか。
「なっ!空狼さんが田中さんを!?…そ、それに裏切ったって」
「ああ、だからイスカリオテの騎士団のメンバーである君たちにはすぐにここの会議室に集まってほしい」
さて、ここから事態はどう転ぶんだろうな、空狼の想定通りに進むかどうか。
会議室に集まった面々。
使徒スキル「否定者」 古館悟
使徒スキル「老成者」 後藤健司
使徒スキル「粉砕者」 一条猛
使徒スキル「叡智者」 姫川愛理
そして私、小池樹の5人らしい。
「否定者」に「老成者」…一体どんなスキルなんだか。
「まさか空狼が裏切るとはな…少し怪しいとは思っていたが予想外じゃったな」
ふむ…爺さんは裏切るとまでは思っていなかったようだ。
「俺も胡散臭いとは常々思っていたが…まさかだよ」
「で、どうするんですか…ここから…俺たちと奴らの戦力差は絶望的ですよ!」
一条が言う、確かにそうだ、今まではね
「大丈夫、一条、私がいるから」
「樹…お前…」
そう、私の代行者の「全力」を出せば、おそらく空狼と互角以上にわたりあえるはずである。この点は探索者協会にとって幸運だった…不幸な点?それは私が「裏切り者」であるところかな。
「…ここで問題がある、奴らこちらに果たし状じみたものを送ってきたのじゃ」
「果たし状…ですか?」
「場所は…関東大ダンジョンの一部、奥多摩ダンジョン…ダンジョン内の一部屋が広いことで有名じゃな…奴ら「浄化」の前に我々を殲滅することにしたらしいのう」
「…ふざけた奴らだぜ」
「…しかし、我々にとってもチャンスである故…乗るしかなかろう、罠の可能性があってもな」
「…で、何時なんですか後藤さん…決戦は」
「…明日じゃ」
「…明日…だって!?」
「…奴ら余程我々をさっさと片づけたいらしいのう」
「…明日ということは」
「ああ、早々に移動を開始するぞ…みなみな、いまから準備を始めなさい」
「…マジかよ」
…明日か…それほど侵略までの猶予がないということなのだろうか?
そんなわけで私たちは解散し、各々明日への準備を始める。
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