第27話 じゃあ私は愚者

「そう、この世界を守るため…この世界の『裏切り者』たちを抹殺するために世界が生み出した存在です」


ま…抹殺?


「なぜ、それに何の意味が」


「侵略者たちは、進化した人間がいない世界は興味を見せません」


…つまりは


「そう、探索者たちを全員抹殺すれば、この世界は侵略されないわけです」


…なん…だって。


抹殺…ということは


「つまりはこの世界を守るために、探索者を皆殺しにしろと!?」


「ええ、そうでした…本来なら」


へ?


「本来なら?」


「この世界は探索者たちにも慈悲を与えたのですよ」


「慈悲?」


一体どういうことだ?


「僕の能力…「超越者」は探索者の持つあらゆる「探索者としての能力」を…奪う能力があります…そしてその能力は例外を除いて、すべての探索者の能力を今すぐに奪えます」


今すぐに奪えるだって!?じゃあ…


「あんたが今すぐ奪えば…探索者は探索者じゃなくなって異世界からの侵略はない、と?」


「言ったでしょう、例外があると…使徒スキル持ちの者たちの能力は…彼ら、彼女らが弱っている、あるいは自発的に能力放棄を決意した時に直接触れないと奪えないのですよ」


「…じゃあ、使徒スキル持ちを説得して…!」


「それが無理な事なのは…あなたが一番わかっているのでは?」


…確かにそうだ。私が視た探索者たちの願望には…恐ろしいまでの執着を感じた。


例え上辺だけで探索者ではない人々を擁護する探索者がいようとも…それこそ上辺だけなのだ。


彼らの「人を越える」という願望は大半が無意識の元でも、他の人類を見捨てることすら当然と思うほど強いものだ。


「じゃあ、一体どうするんだよ!」


「それはすでに考えてあります」


考えて…ある?


「侵略まで…それほど猶予はありません、なので…執行使徒とイスカリオテの騎士団で「決戦」を行ってもらいます」


「決戦?」


「ええ、筋書きはこうです…探索者協会の最高戦力である僕が裏切り者である、という情報をそれぞれに流します、その結果」


「その結果?」


「…アパスルは浄化、つまり大規模無差別テロを実行しようとするでしょう」


「それを探索者協会が阻止しようと…執行使徒とイスカリオテの騎士団の戦いになると」


「ええ、そこで僕たち三人は、彼らが共倒れになることを狙うというわけです」


一網打尽というわけだ。だが


「それじゃ、どちらかに死者が出る可能性があるな」


私たちが策を弄して引き起こす戦いで死人を出すのは…嫌だな。


「その可能性はないでしょう」


「…なぜ?」


「あなたは「代行者」として視たんでしょう?彼らの狂ったまでの生への執着を…彼は例外なく、命の危機に陥る前に逃げ出すでしょうね」


…まあ、そうだろうな、あれを視てしまった私は納得するしかない


それにしても。


「…数日とはいえ…世話になった連中を裏切ることになるのか」


「まあ、逆に言えば数日の交流程度で済んでよかったですね」


「私は…お前みたいには、そう簡単には割り切れないよ」


ちっ、気分が悪い、でも…私は代行者の能力で彼らの本性というべきものを見てしまった。


私はそれでも仲間を信じるという選択肢を取れないくらいには…リアリストらしい。


「人生色々とままならないなぁ」


ん?そういえば


「…世界防衛因子として空狼が生み出された理由は解ったが、私とそこの憂国の使徒が生み出された理由は?」


「恐らくですが、私がしくじった時の保険として…人類を「代行」して探索者たちを駆逐するため、でしょうかね」


…それが本当だとしたら、この世界の意志とやらも、まあまあ邪悪だな。


「自分で言うのもなんだが…それを中坊にやらせるのか?」


「まあ、世界の考えなど私たちには推し量れそうにはありませんね」


「そもそも、お前らの話した情報は誰に教えられたんだ」


「世界の化身からですね」


「世界の化身?」


「ふむ、奇妙な猫に会いませんでしたか?」


奇妙な…猫…あ!


「そういえばあの猫…」


「心当たりがありそうですね」


「でも、あの猫は…おそらく春樹に探索者としての能力を与えた存在だぞ」


「ああ、そういえば言ってなかったですね」


「言ってなかった…?何を?」


「春樹という少年は…僕の分体ですよ?」


…へ?は?分体?


「ダンジョンで手に入れた、魂を分け、もう一人の僕をつくるスキル「分体」


、そうして作った分体に偽の記憶を吹き込んで…姿をいじって、自立的に探索者協会に潜り込むようにした、というわけです」





…はぁ


なるほどね、あいつはそもそも人ですらなかったと。


うん、もう色々と…無理やり納得しようとしてきたが…そろそろ…限界だ。


私は三笠刀をそのまま引き抜き、空狼に向けて砲弾を放つ。


「斉射!」


「おっと」


それを易々と躱す、空狼。


「ふむ、突然どうされましたか」


「…今の話、本当か?」


「ええ、本当です」


「なら、簡単だ…お前ら、私を…馬鹿にしているのか?」


偽の記憶を吹き込まれた分体?私はそんなもののために命を張ったのか?


「…」


突然、女にされて、命懸けで守った少年は人間じゃなくて、さっきまで一緒に戦っていた一条や姫川は人類の裏切り者だったって?それに今度は私が彼ら彼女らを裏切ると?


はっ


「どいつもこいつも…私をコケにしやがって…」


「…それは」


私は三笠刀を鞘に納める。


「お前の主張はわかった…私はお前に協力するしかない…だが、覚えておけ…私はお前を、信用もしないし、信頼もしない」


この齢にしてわかったよ、人は信用も信頼もできないものだって。


「少し…残念ですが、協力していただけるなら…問題ありませんね」


ああ、それでいい…私たちはただこの世界を守るために協力する、それだけだ。


「吾輩が思うに…そこまで、人を悲観することないと思うがね、先輩殿…愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、という格言がある」


「…ふん」


なら私は愚者で結構だが?いや…今はただの道化だな。

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