第33話 救世主スキル「開闢者」

僕「小池樹」は代行者のスキルを起動した。


今はすでに探索者の全能力を空狼に掌握されているので探索者の能力を代行することはできない。


なら、私はそれ以外の、残りの、80億の人類の願いを代行する。


すなわち、僕は無能力の代わりに、常人の80億倍のステータスを得る。


「三笠!」


僕は三笠を抜刀し、構え、空狼に突撃する。


それを空狼はどこからか取り出したのか奇妙にねじれた大剣で受け止めるが。


「…くっ」




―ドバッ




僕の80億人分の出力を受け止めきれず、吹き飛ばされる。


このまま一方的に叩きつぶす。


なんとか着地した空狼に向かってさらに三笠を振り下ろし…。


「…否定する」


空狼がそう呟くと僕の振り下ろした三笠が急減速する。


スキル…か。


―当たり前であろう、いくらお主が80億人分のステータスを誇っていようと、スキルなしではな―


それを躱して距離を取った空狼は


「リバティパワー、血統強化、核熱機関、老成化…」


そして空狼は何事か唱えだす、何を


―奴はあらゆるスキルを駆使して自分を強化しているのじゃ、はよしなければ、最悪、ステータスを凌駕されかねんぞ?―


…まずい。


僕は再び全力で空狼を切りつける。


だが。




―パシっ




僕の一撃は奴の指先に軽い音とともに受け止められてしまった。


―間に合わなかったようじゃの―


…でも、僕にはこれしか、ない。


―…む?おいまて―


「斉射!斉射!斉射!」


僕は十二インチ砲を乱射しながら空狼に


「…どうやら樹さんは完全に壊れてしまったようですね」


目と鼻の先に、いつのまにか空狼が




―ドバンッ




そのまま空へ蹴り上げられる僕


「これでは…この世界の命運は…」


重力加速度と僕の加速度が一致し僕の体が空中で一瞬静止した瞬間。


「尽きました」




―ドゴッ




そのまま空狼はどこかへと僕を蹴り下ろす。


吹き飛んだ僕は




―ザバーンッ




何処かの水面に着水しそのままぼくの体は沈んでいく。


ここは…ああ、確かあのダンジョンの近くにダムがあったね、そこに沈んだんだね


―おい!―


みんなを裏切って結局、世界を救えなそうにない僕にはお似合いの薄暗い水中のなかだね。


もう、いいか、このままここで朽ち果てても。


―おい!お主!―


なんだよ三笠、最後くらい静かにしてよ。


―ステータスを見てみるのじゃ!―


ステータス?なんで?


―いいから見るのじゃ!―


…まあ三笠には世話になったからね、それぐらいやろうか


(ステータスオープン)


僕は頭の中でそう唱えると


水中の僕の前に光るウインドウが出現する。


今の僕は代行者しかスキルを持っていないこんなの見ても…


.


―小池 樹


 人間?


 女


 レベル31


 スキル 鬼力レベル1


使徒スキル「代行者」


 使徒スキル「叡智者」


 使徒スキル「粉砕者」―




…え、なんで?


なんで叡智者と粉砕者が、あるの?


そう思った時、突然水中が白い光に満たされる。なに、が。








気が付いたら一面真っ白な空間に私は通常形態で立っていた。


!?、ここは?どこだ!?なぜ「代行者」が解除されている!


「…樹ちゃん」


「…おい樹」


声が、した、後ろ、から、その声は、もう二度と聞くことはないと思っていたもの。


振り向くと、そこには、姫川と一条が立っていた。


「な…ん…で?」


「…どうやら俺たちは相打ちを実行した時点で探索者ではなくなったらしい、だから空狼ではなくお前に能力が結びついたというわけだな、俺たちは魂の残滓と呼ぶべきものだな」


魂の…残滓。


私は膝から崩れ落ち、言う


「ごめんなさい、私はあなた達を裏切った」


「ああ、そのことについてはもう知っているからいいぞ」


「…うん、知ってる」


「私は許してもらおうなんて」


「なぁ樹、お前なんで謝っているんだ」


「…へ?それは」


「人類の裏切り者は探索者でお前はそれを阻止しようとしたのだろ、なにも間違っちゃいねぇだろ」


「でも、お前らにそれを伝えていたら」


「は、それはお前の信用を得られなかった俺らが悪い」


「そうだよ、樹ちゃん」


「私は目の前でお前らを見殺しにした」


「おい、勘違いするな」


「勘…違い」


「俺と姫川は自分の意志で持って相打ちに持ち込んだんだよ、そこにお前は一切関係ねぇ」


「そんなの」


「そうもこうもねぇ、それが事実だ」


「そう、樹ちゃんに責任はないんだよ?私たちの自己責任だね」


「…」


「樹、俺は言ったよな、あとは任せた、と」


「…」


「あれは撤回する、俺たちと、世界を救わねぇか?」


「俺たちと…世界を…救う?」


「俺と姫川のスキル、それにお前のスキル、それを使って空狼をぶっ飛ばす、それだけだ」


「うん!それだけ」


私たちのスキルを使って世界を救う。


私は…許された、さらに力を貸してくれるという姫川と一条。


私の視界がにじむ、白い地面に水滴が落ちる。


「樹…」


「樹ちゃん…」


「ごめんさない」


「誤る必要はねぇ…だが謝罪は受け取る」


「うん!」


「ありがとう、お前らは私の、本当の…仲間だ」


「同じパーティーの仲間だからな、当たり前だ」


「そう!」


「だから、どうか…世界を救うために力を、貸してくれ」


「「もちろん!」」


私たちは遅すぎたかもしれないけど、ここにきて本当の意味で一つのパーティーになった、そう思う、だから


私は目を閉じる。




―使徒スキル「代行者」を管理者スキル「解放者」に更新


 さらに管理者スキル「解放者」に使徒スキル「粉砕者」、「叡智者」を統合。




統合成功、救世主スキル「開闢者」を獲得。―




目を開ける、そこはもう水中、一条と姫川の姿はどこにもない。


でも、わかる、一条も姫川も私のなかに、たしかにいる。


だからもう、焦りはない、恐怖はない。絶望はない。


「開闢者、起動」


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