第19話 叡智者

「止まれ」


一条が言う。それに合わせて私と姫川は動きを止める。また魔物かね。


それにしても


「…一条ってなんか魔物を探知するスキルでも持ってんのか?


「ああ、持ってる、俺はもともと斥候だったからな」


斥候のスキルが「粉砕者」って、なんとミスマッチな…


「今はそんなことより、魔物が優先だ」


「了解…でどこにいるんだ?」


「上の方を見てみろ」


言われて上を見ると、少し先の上空に鳥のようなものが複数飛んでいるのが見える。


「…アレは?」


「キラーホークだね、樹ちゃん」


へぇあれがキラーホークか…遠目にみるとただの鳥だが…


「樹、あいつらをやれるか?」


ふむ、上空の敵か…


―本気の状態で滅多撃ちすればやれんこともないが…力を抑えた状態で無理じゃの―


…まあ、三笠は前ド級戦艦だし対空戦闘なんて想定してないしな…無理もない


「無理っぽいな」


「そうか…なら、姫川、お前がやれ」


「りょーかい」


そう言うと数歩、私たちの前へ出る姫川


姫川がやるのか…「叡智者」の魔法どんなものなのか


私が少しわくわくしながら姫川を見る。


「よーし、いっくよー」


そう言いながら遠くのキラーホークに掌を向ける姫川


…そういえば一条も姫川も無手でだなぁ、魔法用の杖とかないのかな


というか、こんな遠くから狙うのか?


そんなことを考えていると


「フリージングランス×1000」


そう唱えた


すると姫川の掌の周囲の空気が歪み、膨大ななにかが放出されていく。


「なんだ…あれ…」


「あれは魔力だな…魔法を形成するエネルギーというべきものだ」



空中に何か白くて長い物が生成され始める、それも無数に。


次第に、それは…鋭い形状となっていく。


そして、瞬く間に、正に氷の槍と形容すべきものが出来上がった。


その数、空の一部を覆うほど、恐らく1000本ほどだろうか。


氷の槍が放つ冷気が周囲の温度を少し下げる。


「…まさか」


「ああ、そのまさかだ」


そして


「発射!」


姫川の声が響く


それに呼応するように無数の氷の槍がキラーホークの群れめがけて殺到していく


「…壮観だな」


「全くだ」


そして、その氷の槍が通過した後には、なにも飛んでいるものはなく、ただ青空が広がっていた。


…まとめて撃墜したな…数の暴力で。


これじゃあ、キラーホークがどんな魔物だったのかもわからず仕舞いだ。


ていうかさぁ…


「…結局、姫川も…私と同じごり押しでは?」


「…多分、お前の前で見栄を張りたかったんだろう。…追尾する魔法数発でよかっただろうに…まあ全力でファイアーボール打たなかっただけで良しとするか…」


…脳筋(私)に脳筋(姫川)に推定脳筋の「粉砕者」に…脳筋しかいねぇな、このパーティー。


パーティー名「脳筋達」にすればよかったかな…


とか考えていたら


「どう、樹ちゃん!すごいでしょ私!」


ドヤ顔の姫川がこちらに戻ってきながら言ってきた。


「確かにすごかったが…その、魔力?の消費的なのは大丈夫なのか」


「へーき、へーき、このくらい何十回でもできるよ!」


とんでもねぇじゃねぇか、魔法。


「勘違いするなよ…こいつが使徒スキル持ちだからできるんだ。普通の探索者じゃ、あんな魔法、発動すらできねぇ」


発動すらできないのか


「…そう考えると使徒スキルってチートだな」


「まあだから、執行使徒が恐れられているんだからな…そもそもお前の呪神武器も大概だけどな」


まあ、私も数百ミリの装甲を纏いながら12インチ砲をぶっ放すからね。


「でもまぁ…こいつの能力にも欠点がある」


欠点?


「こいつは広範囲殲滅に特化しているからな…逆に言うと純粋な威力はそこまでといえる」


「でも、低出力核兵器並みの威力を出せるんだろ?本気出せば」


「執行使徒は化け物揃いだからな…多分それだけの威力じゃ倒しきれねぇだろうな」


低出力核を食らっても倒せないとか、マジかよ


「というか、お前のそうなんじゃないのか」


「私?」


「お前…戦艦並みの防御力があるんだろう?」


戦艦ねぇ


…そういえば聞いたことがある、アメリカが行った水爆実験で艦船に対してあまりダメージを与えられなかったという話を。


戦略レベルの核兵器ですらそうなのだ、ならば低出力核ともなれば


「私でも耐えられそうだな…」


「そうだな」


まあでも無傷とまではいかないだろうけど。


「もー、なんで私の弱点の話になってるのー!?もっと褒めて、褒めて―樹ちゃん!」


「うわ」


こちらに突撃してきた姫川を躱す。


…ここに承認欲求の魔物がいるな。


「…まあこいつは他にも回復やバフもできる多芸なやつだ」


「ふふーん、どう、すごいでしょ私!だから褒めて、褒めて!」



「…要は器用貧乏」


私はボソッと呟く


「なっ!?…い、いくら樹ちゃんでも、言っていいことと悪いことがあるよー!!!」


気にしてたのか


「こうなったら、撫でまわしてやる、覚悟!樹ちゃん!」


げっ、にげろ


追いかけっこを始める私と姫川


一条は天を仰いで唾す


「ガキか…こいつら」


「まあ、まだ未成年ではあるな!」


「そういう話じゃねぇ!」


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