第18話 VSウルフ 接近戦
「よーく、わかった。…このパーティーには変態と馬鹿がいる」
結局あの後、姫川の魔法「ヒール」で耳を治療したふたり。…魔法って割とスキルの劣化と言われていたが意外と便利だな。それとも姫川が特別なのかな?
「まあまあ、樹ちゃんの問題点が見えたってことだし、結果オーライでしょ!」
「そうだな…一緒に戦っていたら、まとめて吹き飛ばせさるところだったぜ…」
「…さすがに私でも仲間ごと吹き飛ばすことはないよ…多分」
「多分じゃダメだろ!」
はは…まあ今回は失敗したね、案外、異世界っぽい雰囲気に浮かれていたのかもしれない。以後自重しよう。
「はぁ…まあいい、樹、次は近接戦闘をしてみろ」
「…また私かよ」
「ああ、そっちも観ておきたい…ほら丁度おあつらえ向きにウルフが3頭、70メートル先にいる、お前がやってこい。…アレは使わずにだぞ?」
「へいへい」
近距離で副砲をぶっ放したら私も巻き込まれるしね。
70メートル先のウルフ…あいつらか、といかよく正確に距離がわかるな、何かのスキルかね。
まあ取り敢えず、接近しますか。
三笠刀を鞘から抜き、地を蹴り、ウルフ達の方へ向かう。
「ガウ!」「ガウ!」
ある程度接近したところでこちらに気が付いたようで威嚇してくるウルフ達。
よし…とりあえず、先手必勝だな。
手前にいた一匹のウルフに切りかかる。
しかし
「ガウ」
鳴き声をともにウルフは大きく飛び退き回避する。
私は剣術なんて習ったこともないし。力任せに振り切るだけだから、力を抑えた状態では素早い魔物には回避されてしまうなぁ。
「ガア!」
振り下ろして隙を晒した私に向けて別のウルフが飛び掛かってくる。
だが。
―ガキン
飛び掛かってきたウルフの牙は私の装甲に阻まれる…まあ力を抑えた状態でも軽巡洋艦の装甲ぐらい…大体、数十ミリの鋼鉄並みにあるからね。厚さ言ったら、二次大戦中ごろの重戦車に匹敵するくらいだ。魔物だろうが犬っころに破られるはずがない。
装甲に阻まれ硬直したウルフに向かって三笠刀を振るう。
―ズバン!
私に切り付けられたウルフは真っ二つになる。…うむ威力は十分か。
なまじ戦艦の性質を引き継いでいるせいか、全開状態じゃないと戦艦特有の鈍重さが足を引っ張るな…。
「ガウ…」
「ガア…」
残るはあと2匹のウルフだ。…どうしたものかねぇ
―副砲は使ってはダメだとは言われたが、それ以外は使っていいのではないかのう―
…そういえば、それも、そうだな
なら
「47mm砲!」
そう叫びながら三笠刀を振ると、具現化された47mm砲弾が発射され、片方のウルフの頭部に直撃しグチャグチャに吹っ飛ばす。うへぇ…グロい。
まあ12.7ミリ弾でも人間が食らったら悲惨なことになるらしいし、47mm砲ではウルフ相手には完全にオーバーキルだな。
「ガウ!?」
仲間がバラバラに吹き飛ばされ動揺する最後のウルフ。
奴が動揺している隙に奴の前まで移動し首を切りつける
反応が遅れたウルフは私の斬撃を躱すことができずにそのまま首を切り落とされた。
…よし、終わり、と。
「…何というか…ごり押しだな」
「樹ちゃん、力こそパワーって感じだよね」
いつの間にかそばにいた一条と姫川は口々にそんなことを言う。
…いつ接近していたんだ…探索者ってなんでどいつもこいつもステルス能力が高いんだ?
まあ、今はそれはいいか。
「しょうがないじゃん。…つい最近まで、戦いとは無縁の生活を送ってきていたんだもの。」
「それも、そうか…まあ、お前は本気を出せば、執行使徒の奴らに迫る力を発揮できるからな、今は技術云々より、戦闘経験を積みながらレベル上げを最優先で行こう」
そうだよな…技術なんて一朝一夕で身につくものではないだろうし。
というか現代日本で戦闘の技術なんてどう学べばいいのやら。
現代と言えば…そういえば
「なぁ、一条に姫川」
「ん?」
「なんだ?」
「お前らってなんで探索者やってんだ?」
比較的安全な現代日本でなぜわざわざ命の危険を冒す?
「え、そんなの…」
「まあ、人間を超える存在になるためかな…何故そんなことを?」
変態な姫川やリアリストっぽい一条がそんな願望を持っているのは意外だ。
それにしても…おっさん含めてどいつもこいつも人間を超えたいって、ちょっと異常じゃないか?
「…人間超える存在なんて社会に許容されるものなのか」
むしろ排斥されると思うのだが。
「…ああ、そうだな、でもな、それでも俺は人間を超える上位存在になりたい」
「私もー」
ふむ、そこまで?
「ああ、お前は疑問を持っているのか。それを」
「ああ…」
「ということは樹、お前の目的は違うのか?」
「ああ、…まあ確かに病気にならなくなるっていうのは魅力的だが、そこまでは…」
「なるほどな…その話は、前に議論になったことがあってな」
「へえー、で結論は?」
「…多分、そういう渇望を持った人間が探索者としての能力を獲得するんだと」
ふむ…しかし
「となると私は?」
男に戻りたいとは思っているが、人間を越えたいだなんて渇望はないぞ?
「あくまで推測だからな…でもその類の渇望を持っていない探索者なんてお前以外聞いたことないな…案外、お前が特別な存在なのかもな」
「特別な存在ねぇ」
なんか厨二的で嫌だなぁ。
「樹ちゃんは特別だよ!なんたってこんなにかわいいんだもん!」
姫川が私を撫でようと手を伸ばしてくるので払いのける。
…全く油断も隙もない。
「…まあ、今はその手の議論をする場ではねぇな」
そういえば、ここ、ダンジョン内だものな…景色はただの草原だが。
「それもそうだな」
一条に同意する。じゃあこの話はここで終わりということで。
「よし、じゃあ次の魔物を探すぞ、樹、姫川」
「へいへい」
「らじゃー」
というわけでは私たちは私のレベル上げ兼戦闘訓練のための魔物を探して広大な草原を進むのであった。
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