第8話 覚悟
「お姉さんは…ダンジョン探索者なんですか?」
…と、突然何を、なぜダンジョン探索者と?なぜそれを?
俺は驚愕し混乱する。
…冷静になれ、俺
…もしかして、こいつはダンジョンを知っている?
「お前、ダンジョンについて知っているのか?」
俺は男の子に問う。
「はい、知ってます。だって…お父さんはダンジョンで失踪しましたから、それは…」
そこから、男の子…名前は小山春樹というらしい…が彼の過去について明瞭に語りだした。
なるほど、そんな事情が…それにしても
春樹の話を聞き終え、俺は納得半分、疑問半分だった。
どうやら彼の父親はダンジョン探索者だったらしく、その後ダンジョンで失踪したらしい。
というかダンジョンでどうやって金を稼いだんだ。…もしかしてなにか探索者と物品の取引をする組織でもあるのか。おっさんが言っていた後援組織ってやつか?
…それにしても謎なのがこの家に来たときに、気絶した後の夢に出てきたという三毛猫の話だ。
その三毛猫がどうやら春樹にファーストギフトとダンジョンについてのある程度の知識を与えたらしい。
…三毛猫か、そういえば最近あの三毛猫みねぇな…もしかしてなにかつながりがあるのかね、いや偶々か?
あとファーストギフトってそう授かるのか。俺なんて寝て起きたら女にされていただけだというのに。ダンジョンの知識とかもらえなかったし。あれこれギフトというより呪では?
「で、それを俺になんの意図をもって話したんだ」
そうだ、なぜ俺にその話を?
「簡単です。僕をダンジョンに連れて行って欲しいんです」
…そうきたか。
「ちなみに目的は?」
「もちろん、失踪した父さんを探すためです」
そうだよなー、父親は失踪しただけで、別に死体が見つかったわけではない、生きている可能性だってある、しかし…
「その…生存は絶望的…なんだろ?」
話に出てきたおっさんの話によるとそうなのだ
「はい…でも0ではありません、少しでも可能性があるのならば」
少しでも可能性があるならば…か、そりゃそうだ、母親とは音信不通、父親が唯一の家族なのだか…それはきっと命を懸ける理由となるのだろう。
しかしなぁ
「子供をあそこに連れていけと」
「…お姉さんだって、まだ中学生ぐらいなのでしょう?」
まぁ、そうなんだけどさ
「でもなぁ、小学生をなぁ…」
さすがに人様の子をあそこに連れて行くのは気が引ける。
「大丈夫です、僕はどうやらさぽーたー?らしいです」
「サポーター?そういや、たしかスキルはエンチャントがどうとか」
一体どのようなスキルなんだろうか?
「はい…では試しにお姉さんにスキルを使ってみます」
そう言って春樹は俺に掌を向け
「フィジカルブースト」
そう言った。すると
「お?おお!」
な、なんか心なしか体が軽くなったような、それに内から力があふれ出るような感覚がする。
ためしにその場で軽く運動してみる。
…すごい、フィジカルブーストとやらで身体能力が結構上がっているようだ。
「これは…すごいな」
「そうですか?」
春樹が聞いてくる
「ああ、これはすさまじいな」
「…では、僕をダンジョンに連れて行くという話は…」
…うーむ、サポーターというのであれば前線で戦うことはないのだろう。それにこいつを危険にさらさないようにアタッカーであるらしい俺が守ればいい。
「本当にいいのか?ダンジョンにはどんな危険が潜んでいるか正直わからないぞ」
「覚悟の上です」
春樹は即答する
小学生と思われるこいつがここまで言うのだ、子供であるからといってその覚悟を無下にするべきではないだろう。それにファーストギフトを獲得したということは探索者の素質があるのだろう。
「…わかった」
「!?、本当ですか!」
春樹が驚いた顔で問うてくる、断られると思っていたのだろうか
「ああ、ただ約束がある」
「約束?」
「ああ、一つは戦闘中に絶対に俺の前に出ないこと」
「なるほど、わかりました」
春樹は真面目な顔で頷く
「二つ目は…俺がもしダンジョンの魔物にやられたら…俺を置いて逃げろ」
「なるほど…え?」
春樹の表情が凍り付く
「い、今なんと」
「俺が魔物にやられたら、俺を置いて逃げろ、と言ったんだよ」
「お、お姉さん、あなたを見捨てろと!」
春樹が驚愕の表情を浮かべ聞いてくる。
「ああ、そうだ。」
「そんな、なぜ…」
春樹が困惑した顔で言う。
「当たり前だ、春樹、お前は俺が人様から預かった子供だ。全責任は俺にある」
「…」
「だから俺が無責任にもお前を置いてやられてしまったら…俺を置いていけ」
「…」
「で、どうする、それでもダンジョンについてくるか?」
「…僕は」
春樹は深刻そうな表情をして黙ってしまった。
それから、5分ほどだろうか、時が過ぎたところで
「…はい…わかりました。や、約束します」
春樹は決心したような、そんな表情でそう言った。なるほど、そこまでの覚悟を持っているのか。
人を見捨てて自分だけ逃げるというのは、下手をしたら自分の命を懸けるより勇気のいることだろう。そこまでの覚悟があるのなら俺に言うことはもうない。たとえ小学生だろうと。
どう脅したところでこいつの決意は揺るぐまい。
「いいだろう、お前の覚悟は理解した」
「…はい」
よし、じゃあ、あれをやろう。
「…よろしい、ここに新たなダンジョン探査者の誕生を祝福しよう」
俺はいつかの変なおっさんの真似をする。
「…なんですか、それ」
「ダンジョン探索者の儀礼のようなものだ、気にするな」
うん、ちょっと…結構気恥ずかしい。金輪際やめよう。
「そうですか…よ、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
話は終わった。これで俺は小学生だが強力なサポートスキルを持つ仲間を手に入れたわけだ。
さて…
「とりあえず、風呂でも入ろうか」
「え?」
「お前も俺もなんだかんだあって体が汚れているからな」
「確かに…そうですね」
「よし、じゃあ行くか」
そういって俺は春樹の手を引っ張って立たせ脱衣所に連れていく。
脱衣所についたら俺はおもむろに服を脱ぎ始め…
「て、えっ!ちょっと、待ってくださいいい!」
「お、どうした?」
なんか春樹が突然、顔を真っ赤にして大声をだして俺を静止した。
「どうした、ではなくて…ま、まさかい、いっしょに?」
「そっちのが、効率的だろ」
何を言っているのだ、こいつは
「いや、なんでお姉さんがそんな心底疑問そうな顔をしているんですか!」
春樹が猛然とツッコミを入れてくる。
「なんでって…あ、そいうや俺、いま女だったな」
「いやなんで自分の性別忘れてるんだこのひとおおお!」
しょうがないじゃん。ある日突然、女の体になっていたのだもの
「ふーむ、じゃあ、すまんが俺が先にはいっていいか」
「はい!ど、どうぞ、では僕はこれで!」
そう言って春樹は脱衣所を飛び出していった。
…小学生がいちいち気にすることかねぇ、まあいいや。
俺は手早く服を脱ぐと、風呂へと向かった。
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