第6話 おっさんの実力とレベル上げ

「質問はもうないかな」


おっさんが問うてくる


「ああ、特に思いつかないな」


まあ、後々聞きたいことが増えるかもしれないけど


「じゃあ君はダンジョン探索者になるということでいいのかい、自らの命の危険を冒して莫大な恩恵を目指すということでいいのかい」


「ああ」


俺は断言する。まあ他の恩恵にはそこまで興味はない、しかし、なんたって男の体に戻れる可能性があるのだ。他に道はないだろう


「…よろしい、ここに新たなダンジョン探査者の誕生を祝福しよう」


おっさんは随分と大げさな感じでそう言う。


「なにそれ」


「まあ、ダンジョン探索者の儀礼のようなものだよ。気にしなくていい」


儀礼、ねぇ…


「僕たちは基本的に個人主義で自由だ。一応探索者を後援する組織もあるが、まあそれはおいおいで、まずは…」


「まずは?」


「レベルを上げるんだよ。お嬢ちゃん。このダンジョンはレベル上げにちょうどいい


から、ここの第一層でレベルを…そうだね、10まで上げるといい」


「第一層でレベルを10までね、何か理由が?」


「それはレベル10になってから話すね」


なんだか妙に情報が少ないと思っていたら、まだ隠していることがあるらしい


「あ、そうそうこれを上げるよ」


そう言っておっさんは随分古びた紙を一枚渡してきた


「これは?」


「これはこのダンジョンの第一層の地図だよ」


地図か、たしかにここはダンジョンというだけあって迷いそうな構造をしている


「その地図はマジックアイテムで所持者の位置が表示されるから、迷うことはないと思うよ」


なんと見た目は古臭い紙なのに随分とハイテクだ。というかマジックアイテム?なんてものがあるのか。


「それじゃ、お嬢ちゃんがレベル10になれたらまた会おう」


「…放任主義なんだな」


「言っただろう。探索者は個人主義なんだ」


そう言っておっさんが踵を返そうとすると


「ギャ、ギャ」


奥の通路からゴブリンが1匹現れた。俺はシャベルを構える。


「ああ、いいよ、ついでに僕がやる」


と、おっさんが俺の前にでてきた。どうやらおっさんが戦うらしい。おお、おっさんの戦いがみられるのか。


レベル1の俺がここまで人外じみているのだから、俺よりもレベルが高いであろうおっさんの実力はどんなものか気にならないはずがない。


おっさんがゴブリンの前に立つ


「ギャ!」


と、おっさんにゴブリンが飛び掛かっていった。


おっさんはというと、腰に差してあった武器と思われる剣も抜かず、腕を前に突き出した。


「潰せ」


おっさんはそう呟くとともに、掌を閉じた。まるで何かを軽く握りつぶすような動作だ。


…なにしてんの?


俺がそう疑問を持った瞬間、




―グチャ!




ゴブリンの体がまるで空気に押しつぶされるように、まるで握りつぶされるように、つぶれた。地面に落下したゴブリンだった肉塊は黒い煙を上げて空間に溶けてゆく。



…い、今、このおっさん、何をした。


俺が驚いて固まっていると…


「今度こそじゃあね…お嬢ちゃん、ダンジョン一層は大した危険はないはずだけど、気を付けて」


おっさんはそう言って適当に手を振りながら通路の奥へと消えていった


後に残されたのは固まったままの俺と、黒い煙を上げる肉塊になったゴブリンの死骸だけだ。


俺がそれからしばらくして我に返った時には、ゴブリンの死骸はとうに消え去り紫色の石ころだけがそこに残されている。


「あれが、ダンジョン探索者の実力…なのか?」


想像以上だった、まさか無手でゴブリンを肉塊にするとは、何かのスキルだろうか?


しかし、なぁ…


「これは想像以上にダンジョンは危険なところかもしれないな」


ダンジョンに出てくる魔物だけじゃない、おっさんは何も言っていなかったが、もしかしたらダンジョン探索者の中には悪人がいるかもしれない。今の俺じゃ襲われたら瞬殺されるな。


それにしても、そう考えると脅すと言っていた割におっさんはダンジョンの危険性についてはあまり話していなかったような気がする。


おっさんはレベル10になったら、再会しよう言っていた。もしかしておっさんは俺がレベル10になる前に諦める可能性が高いと考えて多くを教えなかったのかもしれない。


…まあ、どっちにしろ、俺には選択肢はない。男の体を取り戻すにはダンジョンに潜るしか方法がないのだ。


取り敢えず今日はレベルを上げてもみよう。おっさんがここをレベル10までのレベリングする場所として推すのならたいした魔物は出ないということだろう。


俺はいつの間にか地面に落ちていたシャベルを拾い上げると、通路の奥、別の部屋へと移動を始めた。










通路を歩いていくつかの部屋を通過した後。


「ギャ、ギャ」


ゴブリンが、現れた!


ほんとこいつらしか出ないな、このダンジョン、一層だからかね?


「ギャ!」


と、ゴブリンが何かを投げつけてくる。えっ、投擲とかしてくるのこいつら。


飛んできた石ぽい物をシャベルではじく。大した威力がなかったのかそのまま地面に転がった。


「ギャ!」


ゴブリンは投擲を防がれ、動揺しているようだ。


…そんなので倒せるほど俺って弱そうなのか?…そういや今は小柄な女の姿だったな。そりゃ弱そうに見えるか


そんなことを考えながら俺は未だ動揺しているゴブリンに接近する。


ゴブリンが接近した俺をみて慌ててもう片方に持っていた棍棒で殴りつけてくる。


それをシャベルで防ぐ、そしてそのまま奴の棍棒を弾き飛ばす。


武器を失ったゴブリンの脳天めがけてそのままシャベルを振り下ろす。


―グシャ


シャベルは見事にゴブリンの脳天を粉砕する。頭部を失ったゴブリンは血を吹きながら後ろに倒れていく。


「うぇ、最悪」


ゴブリンの返り血をかぶりレインコートの一部が真っ赤に染まっている。レインコート着ててよかった。


というかマジで仮にも人型の魔物を殺したのに最初の頃と違って何も感じないな。慣れかな?慣れって怖い。


ゴブリンは黒い煙を上げ空間に溶けていき、紫色の小石だけが残った。


…そういえばこの小石、なんだろうか。


紫色の小石に近づき拾い上げる。うーん、何の変哲もないただの紫の小石だな。いや紫色の時点で普通ではないが、まあいいや。


小石をそこら辺に放り投げ、シャベルを構える。


「さて、レベルを10にして、おっさんから情報を聞こう、そしてさっさと男に戻りたい…」










ダンジョンを進んでもう一体ゴブリンを倒したところで


―経験値を獲得しました。レベルが1から2に上がりました―


脳内に直接声が響く、取り敢えず、レベルが上がったな。これでレベルが2になった。


俺が今まで倒したゴブリンが3体でレベルが0から2になった、後何体ゴブリンを倒せばレベル10になるのやら。


「ギャ」


「ギャ,ギャ」


と、通路の奥からゴブリンが現れた。しかも2体いる。


「初の複数戦か」


さあ、どう戦おうか…そうだな…


俺はスコップを片手で持って構える。そして片方のゴブリン目掛けて全力でシャベルを投げつける。


「ギャアッ!?」


シャベルはゴブリンにどてっぱらに直撃、そのままの勢いでゴブリンを壁に貼り付けにする。


「さて、まずは一体」


「ギャ!」


残ったゴブリンが突然仲間が壁にシャベルで貼り付けにされたことで動揺している。隙あり


俺は地面を蹴ってゴブリンに接近するとそのままゴブリンの頭部に向かって本気で上段蹴りを放つ


―グシャ


ゴブリンの頭部が果実みたいに弾け飛んだ。そして大量の血がこちらに降りかかる。レインコートがさらに真っ赤に染まる。


…最悪だ。これは封印しよう、極力シャベルを使って倒そう。


「はぁ…」


俺はため息をつき、ゴブリンごと壁に突き刺さっているシャベルに近づき引き抜く。ゴブリンの死骸が地面に落ちて黒い煙を上げ始める。


…にしても俺、本当に人間離れした力を持っているな、うっかり人と喧嘩になったら多分、相手は死ぬ。気を付けよう。…まあこんな田舎に喧嘩する相手なんていないがな。


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