第5話 変なおっさんのダンジョン講座?
「あんたが…何者かだって?ただの変なおっさん以外に何があるって」
「うん、もいいや、そのおじさん呼びはこの際無視しよう。…重要なのは俺の身分、ダンジョン探索者についてだ。」
ダンジョン…探索者?
「なんだ、それ?」
「まあ読んで字のごとくダンジョンを探索する人の事だね、て、その前にダンジョンについて先に教えていた方が理解がはかどるね」
「…でこのダンジョンとやらは一体何だ、人の家に突然現れやがって」
「昨日から思っていたけど家にダンジョンがあるのかい?」
「ああ、正確には敷地内の蔵の中にね」
「なるほどねぇ、まあその話は、今はいい」
おっさんは咳払いを一つすると話を始めた
「ダンジョンというのはね、1年ほど前に最初の入り口が見つかったのが始まりだ。そこからどんどん発見されていき今では日本全土に大小約20のダンジョンが発見されている。」
20か、中々に多いな
「ほとんどのダンジョンは層構造で構築されていて、ボス層以外の層には魔物、丁度君が倒したゴブリンの同類が数多にいるんだ。そしてボス層にはとても強力な魔物がいる。」
あいつらがたくさんかぁ…というかボスとやらまでいるのか、というか、これではまるで…
「なんかゲームみたいだな」
「お、嬢ちゃんいいところに目を付けたな…そうだ嬢ちゃんステータスオープンと言ってみてくれ」
なにそれダサい…けどまあーしょうがない、やってみるかと俺が
「ステータスオープン」
とつぶやくと
突如目の前に光るウインドウが現れた。ちょっとびっくりした
「…なにこれ」
「書いてあるものを見てごらん」
―小池 樹
人間?
女
レベル1
スキル 鬼力レベル1―
と、書いてあった、というか俺は体が女になろうと男のつもりだ。
というかなんで人間が疑問形なんだよ。俺は人間のはずだ。
「なんか書いてあるな」
「ああ、君はまだ初心者だからレベルの権限の関係でほとんど情報はないかな」
「スキルに鬼力とかあるんだけど」
「…ほんとかい?それは珍しい。それにしてもその見た目で、スキル怪力の上位互換たる鬼力とは、君完全にアタッカータイプだね」
アタッカー?
「ほんとゲームみたいだな」
「ああ、そうだろう」
おっさんが同意してくる
「と、話がそれたな、でここで重要なのがレベルだ」
「レベルが?なぜ?」
「それはね、レベルが上がるとあらゆる恩恵を受ける、例えば病気にならなくなったり、身体能力が向上したり…果ては寿命が延びたり、人間よりさらに高位な存在になれたり、とね…まあ例外もあるけど」
病気にならない?人間よりさらに高位の存在?なんだそれは
「てっ、はあ!?それってとんでもないことなんじゃ…」
「ああ、とんでもないことだ、世間が知れば戦争が起きるね。他にもダンジョンにはあらゆる病傷を治すアイテムとかも存在する。」
それはやはりとんでもない…ん?
「…ん?待てよ、そうだ!そもそもなんで世間はダンジョンについて知らないんだ?」
「簡単さ、探索者の素質があるもの以外にダンジョンは認識できないんだ」
認識…できない?
「それによってダンジョンについて知っているのは探索者たちだけなんだ」
「にわかには信じられない話だぜ、なんせここに存在するのに認識できないって」
「まあ僕たちにもどういう原理なのかさっぱりわからないから、疑うのも無理はない話だが、ダンジョンが世間に広まってないという現実こそが証拠だよ」
なるほど、確かにね、というか
「もしかしてお前ら探索者とやらもダンジョンについてあまり知らないのか」
「ああ、そうだよ、実は僕たちもこのダンジョンとやらについてあまり多くの事はしらないのだよ」
「…昨日はあんなにすべて把握している雰囲気をだしていたのに」
「昨日はちょっと脅したかったからああなったんだよ」
ふーん、まあいいや
「とまあそんなダンジョンを探索するのがダンジョン探索者ってわけだよ」
ダンジョンを探索するからダンジョン探索者か、そのまんまだな。
「それで、おっさんがダンジョンを探索する理由って」
「それは、あらゆる恩恵を手にいれるためさ、人間をやめて、さらに高位な存在になれれば、人の持つ苦しみから逃れられるんじゃないか、と考えたのだよ」
「…なんか危険な思想を感じるな」
「でも、君も魅力的だと思うだろ?」
おっさんが問うてくる。
たしかにレベルを上げるだけであらゆる病気にかからないというのはとても魅力的だ。
そしてなにより…レベルを上げることで男に戻れる可能性が出てきたということだ。
「…たしかに魅力的だな」
「そうだろう、そうだろう」
おっさんがしきりに頷いている
「ところで、おっさん、寝て起きたらとんでもない変化が起きたっていう事例は知らないか」
俺は女になったことをぼかして問う
「とんでもない変化が起きた事例…もしかしてファーストギフトの事かい」
どうやらおっさんに心当たりがあるようだ
「ファーストギフト?」
「ああ、一部の探索者がダンジョンを認識する直前になにかギフトとして恩恵がもらえることがあるのだよ」
恩恵、か、いや体の性別が変わることのどこが恩恵なんだ。納得できねぇ…。
がこれで性転換のおそらくの原因が判明した。
「嬢ちゃん、君にも?」
「まあね、まあ内容は話すつもりはねぇが」
「ああ、別にそれでいいよ、探索者は基本的に相手が聞かれたくないと思っていることは聞かないというのが掟なんだ」
へーそんな掟まであるのか。
「て、また話がそれたね。他にも探索者用の交流サイトがあったりするけど、これは君にはまだ早いかな」
「ここにきてガキ扱いか?」
「まあ、あれは些か過激な部分があるからねぇ」
おっさんが遠い目をしてそう言う。
「…と、まあ説明はこのくらいかな」
「ほんとに情報が少ないな」
「まあね、後は…君からなにか聞きたいことは」
聞きたいことか、じゃあまず
「ここはなんてダンジョンなんだ?」
「ああ、すっかり言い忘れていたよ、ここは関東大ダンジョンの一層だね。」
「関東大ダンジョン?」
「ああ、入り口が関東地方のそこらに散らばっている、とても巨大なダンジョンだよ。…ちなみに地表の入り口の位置から推定できるダンジョンの面積と実際のダンジョンの大きさには、大きな開きがあるから注意ね」
ほう、それはつまり
「…なるほど、だから俺とおっさんは地表では離れた入り口から入っているのにダンジョン内ではご近所みたいに簡単に合流できているんだな」
「うん、ダンジョンはおそらく時空が歪んでいるんだろうね」
時空が歪んでいる。なんかすごいスケールだな。
「で、他に聞きたいことは」
他に聞きたいことか…
「そうだ…呪神武器って知っているか?」
「呪神武器だって…その言葉どこで知った?」
おっさんが突然険しい顔になって聞いてくる。
「なんかそれに呪われたって、頭の中に」
「の、呪われたって…マジで?」
「マジで、で何か知っているのかおっさん」
「ああ、噂できたことがある…なんでも使えば恐ろしいほどの強力な武器となるが…」
なるが?
「とても大きな代償を支払うことになるらしい、と」
「大きな代償、か…」
大きな代償というのは一体なんなのだろうか
「まあ、噂で聞いた話だからな、どこまで信ぴょう性があるかわからないけど、使わないことをお勧めするよ」
「ああ、そうするよ、というかそもそも使い方もわからねぇし」
「なら安心だ」
おっさんが少し安堵した様子で言った。俺の身を案じていたのだろうか。まあ俺の今の見た目、小柄な少女だものな。心配もするか。
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