第3話 ダンジョン?と謎のおっさん

なんだ…これ。


俺はシャベルを持ったまま困惑し立ち尽くす。


蔵の扉が開いていたので、すわっ泥棒か!と蔵に恐る恐る入ってみたら、謎の地下へ続くと思われる階段があった。


しかも階段は石づくりで年季を感じさせる。まるで、長年そこにあったかのように。


…これ、もしかして元からあったのか?古墳かなんかか?


わからない。親父も管理していた人もこんなものがあるとは言っていなかった。


泥棒がどうこうも忘れ俺がただ困惑していると


「にゃー」


穴の階段の下の方に例の三毛猫がいた。


「にゃー」


とその三毛猫が階段の奥に行ってしまった。


普段の俺なら、ここで引き返してなかったことにしたのかもしれない。


しかし、今俺の体には女になるという異常が起こっている。


しかも、なんといってもなぜかあの三毛猫の事が頭を離れない。



…行くか


しばらく逡巡したあと、俺はこの階段の奥に進むことに決めた。














三毛猫を追って階段を下っていて奇妙なことに気が付いた。電灯もないのになぜかこの空間は真っ暗ではなかった。というか結構明るい。


よく見ると洞窟?の壁がわずかに発光している。


…大丈夫だろうか昔ネットで発光している物質には危険なものがあると見たことがある。やはり引き返してなかったことにした方がいいのではないか


そんな考えが俺の脳裏によぎったが、しかしあの三毛猫の様子がどうしても気にかかる。


よし、男は度胸だ。体は女だけど、はぁ…


ため息をついて、とりあえず俺は階段を降り続けることにした。にしても深いな。どこまで続くんだろう。


しばらく、時間にして大体1,2分階段を降り続けると階段が途切れた。


やっと終わったか


「これは…」


その先には、はたして、なかなか広い空間が広がっていた。


石材でできた学校の教室ほどの空間。


奥にはさらに別の部屋へ続いているとみられる、通路があった。


その様子はまるで…ゲームとかによく出てくるダンジョンっていう趣だ。


よしこれからはこの謎の洞窟をダンジョンと呼ぼう。


…我ながらゲーム脳だろうか、まあいいや。


「お?」


部屋の隅っこに例の三毛猫がいった。


「にゃー」


こっちの気も知らないでのんきに鳴いてやがる。かわいい。


三毛猫に近づき見下ろす。


「お前、ここに住んでいるのか?」


「…にゃー」


ってなんでまた俺は猫に話しかけているんだ。


というかこの鳴き声的に否定のニュアンスが伝わってくる。


俺は女になっだけではなく、猫の言葉まで理解できるようになってしまったか…


俺は天を仰いで唾す。天というか天井だけど


…というか、今更だけどこんな異常事態に遭遇している割に落ち着いているな俺。


何故だろうか。体が女になっちまったからか?


と俺が三毛猫の前で考え込んでいると。


「みゃ!」


三毛猫が突然、警戒するような威嚇するような鳴き声を上げた。


おいおい、どうした、どうどう


俺が三毛猫をなだめようとすると




―ぺた、ぺた




後ろから、何かが、近づいてくるような、足音がする


!?


俺は飛び退いて後ろを振り返る。


そこには


小さな人影があった


しかし、人ではないと即座に分かった。


なぜか、それは。妙にやせこけた体、緑色の肌、小柄な今の俺よりさらに小柄な、顔には、大きな口、大きな牙、黄色い濁った瞳、手には小さな棍棒をもった。人というよりサルっぽいけれどもサルより醜悪で凶悪な雰囲気を持つ


そんな存在が俺の目の前にいた。


冷汗が額を流れる。背筋が凍り付く。


そしてその異形と目が合った


動けない、恐怖で、動けない。


「ギャ、ギャッ」


奴と目が合った、そして奴は醜悪な顔を歪めた。


まるで狩人が獲物を見つけて笑っているような。


そして、


「ギャ!」


奴がこちらにとびかかってきた。


!?


まずいッ、


「うわあああああああ」


俺は情けない声を出しながら、目を閉じてほどんど脊髄反射で全力で持っていたシャベルを前に突き出した。


な、何とかなれー!!!


グシャ


なにか変な音が空間に響き渡る。手に何かを変な、不快な感触が伝わってくる。


突き出したシャベルがなんか少し重くなったような気がする


なにが


恐る恐る目を開くと


そこには醜悪な顔に驚愕の表情らしきものを浮かべた奴が、異形がシャベルに胸のあたりを貫かれていた。


「う、うわあ」


慌ててシャベルを振り回す、すると突き刺さっていた奴が吹っ飛んで行って壁に衝突した。


グシャリ


壁に衝突した奴がずるずると壁から地面落ちる。


そして


そのまま奴が動かなくなる。



俺はそのまま地面にへたり込む。


「はぁ、はぁ」


荒い息が漏れる。


手にはまだ奴を貫いたときの不快な感触が残っている。


俺は、奴を、よくわからないが人型の生物を、殺したのか



俺が座り込んでいると


プシュー


奴の死骸の方から奇妙な音がした。


!?


慌てて奴の方を見ると、奴の死骸は黒い煙を放ち始めている。そして瞬く間に奴の体が空気に溶けるようになくなっていき。


最後には紫色の小石だけが残った。



な、なにが?


俺が困惑していると突如、脳内に




―ゴブリン1体を討伐、経験値を獲得しました。レベルが0から1に上がりました―




と声が響いた。


「へ?」


はぇ、なんだゴブリンってさっきの奴の事?、それに経験値にレベルって、というか幻聴か?


俺が謎の声のせいでさらに混乱していると


「まあ、はじめてにしては上出来といえるかな、お嬢さん」


!?


声が、突然男の声が聞こえた。立ち上がり慌てて声がした方を見る。


そこには背の高い30代前半だと思われる男がいた。


なぜか金属製だと思われる古風な鎧を身に着けている。コスプレかなんかか?


と、とりあえず


「誰だ、何者だ、変なおっさん」


と、俺が誰何すると


「…いや、僕まだギリギリ20代なんだけど、というか変なおっさんって」


なんか知らんが変なおっさんが落ち込んでいる


「…ここは俺の家の蔵に入り口があったはずだ、なんだ、あんた、泥棒か」


「ああ、お嬢さん、君はダンジョンについて何も知らないらしいな、まぁ取り敢えず、僕は別の入り口から入っていたと言っておこう」


ダンジョン?確かに先ほど俺はそう呼ぼうと考えていたが…


というか


「別の入り口?」


「そうだ、とある都会の建物にある別の入り口だ」


「都会?ここはド田舎にあるはずだぞ」


「…ふむ、ほんとに何も知らないみたいだ」


「…おっさんは色々と知っているのか?」


「…そのおっさんというの…まあいい。そうだ、例えば今さっき君の頭の中に不思議な声が響かなかったかい?例えばそう、レベルが0から1に上がった、とか」


!?、なぜそれを、たしかにさっき頭に変な声が響いた…


「…」


「その表情、図星みたいだね」


表情で考えを読むなよ、おっさん。


「じゃあ、一体ここがなんなのか、説明を」


「別に洗いざらい説明してもいいが、…覚悟はあるか?」


覚悟?どういう。


「どういうことだ?」


「というか嬢ちゃん、天使みたいな見た目をしているのに、口調が荒いね…まあいい、そうだ覚悟だ、この話、ダンジョンについての話を聞くとおそらく…普通の日常へは戻れなくなるぞ」


「日常へ、戻れなくなる?」


「ああ、普通の人生を送りたいなら、このダンジョンでの出来事はなかったことにして、ダンジョンも存在しなかったことにしろ、だが…」


「だが?」


「もし、覚悟があるなら、非日常を送る覚悟があるなら…明日の、今あたりの時間、ここに来るといい」


「え、明日?」


「ああ、これはしっかり一晩考えた方がいい…そして個人的にはなかったことにするのがおすすめだ」


「…」


「じゃあ、もし機会があったらまた会おう、じゃあね嬢ちゃん」


「あ、おい、ちょ、おっさん!」


おっさんはそう言うと、踵を返し、手を振って、ダンジョンの奥に消えていった


「…はぁ」


なんか、色々ありすぎて疲れてきた、というか、突然女になったりダンジョンだったり変なおっさんだったり、ここ最近何なんだ…


「とりあえず、帰るかぁ」


俺がそう呟くと


「にゃ~」


隣にいつの間にか戻っていた三毛猫がのんきそうにそう鳴いた。

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