第2話 蔵の謎


そうだ!取り敢えず親父に相談してみよう。


困ったときには神頼みならぬ親頼みだ!


思いついた俺は善は急げとばかりに充電してあったスマホから、受電端子を引っこ抜き。


スマホで親父に電話を掛ける。


しばらくすると親父がでた。


「もしもし、どうした、樹、ついさっき…」


「親父!俺、女になっちまった!」


「…はぁ?」


親父の困惑した声がスマホから聞こえてくる。


「い、いや何を言ってると思うかもしれねぇが、本当に…」


「いや、本当に何を言ってるんだい。樹…」


「あ、いや、その…」


「全く、樹、君は元から女の子じゃないか」


…は?


「は?」


「いや、は?じゃなくて…なんだい男言葉を使いすぎて、自分を男と思い込んでしまったのかい、冗談でお父さんをからかうのはほどほどにしなさい。」


え、いやそんなはず…


「い、いや俺は男だ!」


「…樹、もしかしてそれは性自認の話をしているのかい?…そうか樹は…」


「ち、違う、俺は心身ともに男だったはずで…」


「大丈夫だ樹、君は今混乱しているんだ。自分の心と体の乖離に気が付いて…とっ、仕事だ、樹、このことは今夜電話でゆっくり話そう。大丈夫、父さんは樹の味方だ、じゃあ、あとでね」


電話が切れた。


…どうなっている


親父は俺の事を元から女だと言っていた。


親父の頭がおかしくなったのか?


ふいに、俺はポケットの中に前の中学の生徒手帳が入れっぱなしであったことに気が付いた。


取り出して中を見てみる、そこには…


気弱そうな美少女の証明写真と小池樹とかかれた名前…


は?



ああ、


これは、


そうか、


親父だけじゃない、生徒手帳が、いや恐らく「世界」が、俺が女であるということが真実であると、しているのだ。


…いや、意味わかんねえよ。


「にゃー」


縁側から鳴き声かしたので行ってみるとそこにはまた例の三毛猫がいた。


「はぁー」


取り敢えず三毛猫撫でる。


ほっそりとした白い手が猫を撫でている。ああ、これ俺の手かぁ


「にゃー」


しばらくすると、三毛猫は立ち上がり、縁側からどこかへ行ってしまった。



もういい、色々とだるくなってきた、シャワー浴びて、寝るか。


脱衣所に向かう。風呂はさっき言った通り普通の風呂だ


脱衣所でぶかぶかの服を脱ぐ、ふと洗面台の鏡を見ると、そこには真っ裸で、けだるげな表情をした気弱そうな美少女が…胸は意外とある。


…うん、なんも感じねぇな、これが俺だからかそれとも、心まで女に…は!


俺は脳裏によぎった恐ろしい考えを頭を振って打ち消す。


落ち着け、例え、体が女になろうと俺は男だ!


…はぁさっさとシャワーを浴びてしまおう。
















シャワーを浴びて脱衣所に戻ってから気が付いた。


「そうだ、服がねえ」


着ていた服はすでに洗濯機に放り込んで回してある。


どうしたものか…


いくら、初夏の季節とはいえ真っ裸だと風邪ひきそうだ。というか急な来客に対応できない。


…しょうがない、背に腹は代えられないか。


おれは体をバスタオルで拭いたあと、キャリーバックが起きっぱなしの和室へ向かう。


そしておもむろにキャリーバックをあさる。


…これは


取り違えたわけじゃなさそうだな。


女物の衣類以外は俺が持ち込んだ荷物だった。


服だけが女物になっていたのだ。


なぜだかわかねぇな。誰かのいたずらか?


…というかいつまでも真っ裸でいるわけにはいかね。


女物の衣類の中からできるだけ男っぽい物を探る。


下着はまあ、色々とあれだがしょうがねぇ。


上下はTシャツに短パン。


なぜかサイズは小柄になった俺にぴったりだった。怖え


うん、もう寝てしまおう。とその前に歯磨きしねぇと、虫歯になっちまう。もちろん田舎なので各病院は遠い。体調管理には気を配らないとならない。


歯を磨いたあと俺は寝室と思われる和室に向かい押し入れか布団を引っ張り出す。


そしてそれを敷く。


ブー、ブー。


と、不意に短パンのポケットに入れていた。スマホが震えた。


確認してみると親父からの着信だった。



スマホの電源を切り、そこらへんにほっぽる。


さっさと横になり目をつぶる。


―明日になったら、全部もとに元に戻っていたらいいのに。
















翌日


「ふあああ」


目を開け、上半身を起こし、あくびをする。



声は…うん、女の、高い声のままだ。


腕を、体を見てみても、それは小柄な少女のものだった。


…はぁ


寝て起きたら元に戻っていると結構期待していたが、ダメだったか。


「はぁ…」


ため息をついてスマホを手に取り電源を入れる。


スマホのメッセージアプリには俺を心配した親からのメッセージが大量に届いていた。


「めんどくせぇ」


とりあえず、一言「問題ない」とだけメッセージを送っておく。


そしてスマホをポケットにしまい起き上がり


「うーん」


大きく伸びをする。相変わらず女の声が自分の口から洩れる。


「とりあえず、腹減ったしなんか食べよう」


さっさと布団をたたみ、押し入れにしまう。


そして台所にいき、そこにおいてあった真新しい冷蔵庫を開けてあさる。


上の方にヨーグルトを見つけた、あれを食おう。


ヨーグルトを取ろうと手を伸ばすが届かない。


ああ、身長がかなり縮んだんだった。


背伸びしてなんとかヨーグルトを手に取る


賞味期限は…大丈夫そうだな。


「いだだきます」


ヨーグルトをスプーンでぱっぱと食べる


食べ終わると結構腹にたまった感がある。


小柄な少女の体だからだろうか、こんなちょっとで結構お腹いっぱいになってしまった。


前の俺はかなりの大喰らいだったにの…


まあ、少量でお腹いっぱいになるのなら、買い出しが大変なここでは利点か


小食になった前向きにとらえながらヨーグルトの残骸を片付ける。


前向きにならないと心が折れそうになるからな。


それから歯を磨き、大きな和室にいってちゃぶ台の前に座り、テレビを点ける。


なんかワイドショー的なのがやっていた。


ふむふむ、なるほど、どうでもいい、つまらん。


テレビに早々に飽きた俺はスマホでテイッターのTLを確認する。


新作ロボアニメが面白い、か俺アニメ興味ねぇからなぁー


民家の床下に突然、遺跡らしきものが見つかった、かすごいな。


まあ、ここに昼寝してる間に女になったすごいやつがいるんですけどね、奥さん。


そうだ、俺は女になっちまったんだ。どうやったら元に戻れるんだろう。


はぁ、一人でこの状況だっと気が滅入るな。


よし、ここは昔なじみのダチに電話するか。


俺はスマホで、友達の田所に電話する。


掛けると田所はすぐに出た。


「よう、田所」


「おお、小池か、相変わらずかわいい声してんな。」


ああ、これはこいつも俺の事、元から女だったと思い込んでいるな。


「うっせ」


「はぁ、お前ってホント言葉遣い以外は完璧だよなぁ、お前に告白してきつい言葉で振られた奴らを思いだすぜ」


は?


「…告白?」


「あ、何言ってんだお前、言葉遣い以外は完璧だから告白されまくってただろう」


「マジで?」


「…これは振られた男どもが哀れだぜ、勇気を出して告白した奴らが忘れさられてて憐れだぜ」


俺に告白した奴らがいたことになっているのかぁ、というか


「気持ち悪い」


「おいおい、オーバーキルしてやるな」


「…まあ、いい、じゃあな」


「?あ、ああじゃあな」


田所との電話を切る。


よし、次はダチ2号の田島に連絡してみよう


電話を掛ける


「よう、田島」


「…どちら様で?」


…へ?


「いやいや、俺だよ小池だよ」


「いやいやいや、小池は男であなたみたいなかわいい声は…さては、怪しい勧誘電話か!


小池め、ルイン垢を乗っ取られたか?」


ブチっ!


通話が切れた。


…これは、どういうことだ。


田所は俺を女だと認識していたが、どうやら、田島は俺を男だと認識していた。


なぜ人によって俺の性別の認識に差があるのか。



うむ、まったくわからん。


「はぁ…」


これは場合によっちゃあ、めんどうくせーことになるな、戸籍とかどうなっているのだろうか


「にゃー」


と、縁側にいつの間にか例の三毛猫がきていた。


俺は和室から縁側に行き猫を撫で始める


「お前は悩みとかなさそうでいいよなぁ」


「にゃー」


ホントにうらやましい、いっそこのまま猫にならないかなぁ。


「にゃー」


と、三毛猫が立ち上がる。また裏山にかえるのかな。


そう思って三毛猫をみていたら、三毛猫はなぜか扉が開いていた蔵に入っていった


…あれ、なんで蔵の扉が開いている。


まさか…泥棒か。こんなド田舎で


やばい、マジでヤバいぞ。と、とりあえず


俺はサンダルを履き、庭に出て、壁に立てかけてあった大きめのシャベルを手に取る。自衛のためだ。


…ん?


そこで違和感を覚える、なんか見た目に反してシャベルがめちゃくちゃ軽い。


いや、シャベルが軽いというより


「俺の力がめちゃくちゃ強くなってる?」


女の、それも小柄な少女に体になって逆に力が増すとかどういう原理なのか。


…まあいい今は好都合だ。


俺は恐る恐る蔵へ近づき、中をのぞいた。


そしてそこには、


「は?」


埃っぽい空気、雑多にものが置かれた蔵の床の中心にぽっかり大きな穴がそして、その穴には下に続く階段があった。

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