さいごのひとつ 4

 「ええっ!天狗さんの一部をまた玉に封じたの?そんなのひどい」

≪封じたのではない。入れただけだ。それも髪をひと房だけだから、なんら問題はない。悠斗はると、お前や友たちとのつながりのためには十分に役に立つ≫

「……玉に話しかけたら、天狗さんが答えてくれるの?」

≪今までのように話すことはできない。だが何か困りごとがあった時の頼りにはなるだろう≫

そっか……今までのようなおしゃべりはできないんだ。

≪……言っておくが、そこの、智生ともきとか言ったか。お前が考えているようなことは困りごととしては受けつけないからな≫

「智生……何を考えたの?」

「え?」

「まさか、遠足の日は必ず晴れになりますように、とかじゃないよね?」

「そ、そんなはず、ないだろ?りゅう

智生……目が泳いでるよ。

 

 「大天狗さん、ありがとう」

≪わかって、くれたようだな≫

「うん。この中に天狗さんがいる、それだけでも十分だよ。天狗さん?近くにいるんだよね?」

【なんじゃ?】

「いままで、ありがとう」

【……礼を言うのはわしの方ぞ】

「ぼく、天狗さんと過ごせてすごく楽しかった。いろいろ、いっぱ……」

涙がこみあげてきて、さいごまで言えなかった。

いっぱい楽しいことができて、うれしかった。

このことは、絶対忘れない。

大人になっても、ずっと忘れない。

ちゃんと,言いたかったのに。

くちびるをかんでうつむいてしまっていた僕の背中を、隆之介がポンポンと叩いてくれた。

【……わしも、忘れぬぞ】

「え?」

【おぬしの心のうちは、わしにもわかる……父上のようには読み取れぬがな】

 

 ≪さて、そろそろ行くがよい。外で待っている祖母殿も心配しているだろうしな≫

「うん。あの、大天狗さんもありがとう」

≪我は、なにもしておらぬ。すべてお前と、友らとで成し遂げたことだ。なんだ?泣いているのか?……これが永遠ながの別れではなかろう?先ほどの玉もあるのだぞ≫

「うん。わかってはいるんだけどね」

ぼくだけじゃなく隆之介りゅうのすけも智生もれんも、鼻をすすっているようだった。

「……そろそろ、帰るね」

ずっとここにいたい気持ちもあったけれど、それってきっと天狗さんや大天狗さんを困らせることになるし。

「……行こう」

ぼくは隆之介たちに声をかけた。

みんなうなづいて、それぞれに涙をぬぐった。

トンネルの入り口に立つ……ここをぬけたら、お別れなんだ。

また鼻の奥がツンとした。

頭を一度ぶるっとふってふりかえり、誰も見えない洞穴に向かって手をふった。

「ばいばい!またね!!」

トンネルの中は来たときと同じくうす明るかった。

ぼくたちは無言で、出口に向けて歩いた。

 

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