さいごのひとつ 3

 ≪我たちは、修行によって普通のヒトよりも長い年月としつきを生きることができる。その果てがいつかは我自身も知らぬ。だが、は存在できるには限りがある。我はもちろんのこと、あやつの生身の身体も今現在は存在しない。いまあるのはという存在だけだ≫

……ショックだった。

元の姿を取り戻せたら、玉の中に見えていた姿が目の前で見られる。

そう思っていたから。

「あ、でも。大天狗さんは人間の姿になってヒトとして暮らしていたんでしょう?それって、天狗さんにもできるんじゃないの?」

≪それは、我ほどまで成ればできるわざだからな。あやつの能力ちからではまだ足りぬ≫

【父上……】

天狗さんの声が聞こえた。

【一度でよい。一度でよいので今のわしの姿を、の者たちに見せる助力をしていただけぬだろうか】

≪ふむ。現在いまのおぬしの能力ちからでは、かなわぬことではあるし。よかろう。今回限りということで、頼みを聞いてやろう≫

ヒュ───ッといった風のような音が聞こえたと思うと、洞穴の真ん中あたりに黒いもやのようなものが現れ、だんだんと形が作られていった。

 

 少しずつ人のような形になっていく。

ぼくたちは、だまったまま黒いもやを見つめていた。

≪この姿が、今のあやつだ≫

その姿は、ぼくが前に天狗さんに見せてもらった姿そのままだった。

絵本で見た天狗が着ていたような見慣れない着物を着て、背中には鳥のような羽が生えていて、その顔は……長い鼻ではなく鋭く尖ったがついている。

「天狗さん!」

ぼくは思わずかけよった。

ぼくだけじゃなく、れん智生ともき隆之介りゅうのすけも。

「よかった。ほんとに元の姿が取り戻せたんだね」

【おぬしらの、おかげじゃ。礼を言う】

言いたいことがあったような気がしたけれど、言葉が出てこなかった。

ぼくたちも、天狗さんも。

≪……そろそろ、よいか?邪魔をするような無粋な真似はしたくないが、我らにはするべきことが待っているからな≫

 

 「するべきこと?」

≪こやつから聞いておろう?我らは自然の力を借りて、ヒトの助けとなることをせねばならん。こやつの再教育もかねて、しばしの間修行に戻らないといかんのだ≫

「それって……もしかして、これでお別れになるってことなの?」

≪そうなるな≫

「いやだよ。お別れなんて、いやだよ。ずっと、一緒にいたのに」

「悠斗……」隆之介がぼくを見て、首を横に振った。

わかってる。

天狗さんとずっと一緒にいたいってことは、ぼくのわがままだってわかってる。

でも……。

≪悠斗。おまえのあやつへのおもいはよくわかる。だが、我らには我らの使命があるのだ。ここは、こらえてくれ≫

「……天狗さんには、もう会えないの?」

≪会えぬことは、ない。あやつが封じられていた玉があろう?≫

「これのこと?」ぼくは持ったままだった玉を手のひらにのせた。

手のひらの玉が、ぼんやりと光りだした。

なんだか、あたたかい。

≪あやつの一部を、玉のなかに入れておる。この玉を介して、あやつと通じることができよう≫

 

 

 

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