さいごのひとつ 2

 ≪それでは、戻してやるとしよう≫

いつのまにか浮いていた玉は、ぼくの手の中に戻ってきていた。

≪さて、どうじゃ。おぬしはどこにと思うか≫

大天狗さんの話し方が、古くさくなっている。

【わしは……】

ふうっと風が吹いた。

【のう、すまぬがもう少し前へ進んでもらえぬか?】

天狗さんの話し方もいつもと違ってる。

「前って、こっちの方?」

【うむ……上にいておる穴の真中まなかあたり……このあたりでよかろう。そのままわしを高くあげてくれぬか】

「このくらい?」

ぼくは石窟でやったように、玉を持った手を高く上げた。

【もう少し、上へいけぬか?】

「ぼくじゃ、これ以上は無理だよ」

ぼくは手をできるかぎり伸ばし、精一杯背伸びしていた。

「高く上げるのって、悠斗はるとじゃなくても大丈夫なんだろう?」

そう言ってれんがぼくに近寄り、右手を出してきた。

「このくらいなら、どうだ?」

蓮は、ぼくが渡した玉をせいいっぱい背伸びして上にあげた。

 

 ピカ──────────────────ッ!!!

今まで見たこともないようなまぶしい光が洞穴を満たした。

さすがに慣れたから叫び声はあげなかったけれど、やっぱりまぶしくて目をつぶってしまった。

≪もう、目をあけてもいいぞ≫大天狗さんの声がした。

ゆっくりと目を開ける。

「天狗さん、どんな姿になったの?」

いつものように、玉の中をのぞきこんだ。

そこには……

「え?なんで?天狗さん、最後の右手も戻って元の姿を取り戻せたのでしょう?なんで姿が見えないの?」

≪お前……悠斗はるととかいう名前だったか。元の姿を取り戻すということがどういうことかわかるか?≫

「え?それは……頭以外の、バラバラに隠されている手とか足とかを全部見つけてひとつの身体に戻ること、じゃないの?」

≪その考えは、間違いではない。ただ悠斗が忘れていることがある≫

 

 「忘れてること?」

≪あやつの頭は、何故玉の中にあった?≫

「忘れてないよ!それは大天狗さんに封じられたから入ってい……」

あ……そうか。

「!封じがとけたんだ」

≪そう。元の姿を取り戻して封じが解けた。だから玉の中に姿がないということだ≫

「じゃあ、天狗さんはどこにいるの?ぼく、会いたい!」

≪会う……ことはかなわぬ≫

「なんで?元の姿を取り戻したんでしょう?その姿を見てみたいよ」

「おれも見たい!最後の手助けしたの、おれだし」蓮もとなりで言ってくれた。

≪確かにあやつは元の姿を取り戻せた。だが姿お前たちに会うのは不可能だ≫

「だから、どうしてだよ!」珍しく蓮が苛立った声をあげた。

≪我たちが、いつからこの世にるかわかっているか?≫

 


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